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Clock Gears_edited_edited_edited.jpg

​スチーム・アンド・スチール

四大陸間が引き起こした世界戦争と、

その後の大災害によって
文明が再び”火の時代”となった未来…

荒野と化し、動植物がほぼ死に絶え
先の見えない濃霧に包まれた大地で
光を目指し、抗い続ける者達が居た

危険を顧みず、如何なる困難をも乗り越え、

各地に散らばる資源を探し、追い求める者達…
いつしか人々は彼らを”探求者”と呼んだ

そして遂に、彼らの齎した”ある恩恵”の力で
人類は蒸気熱を用いる機械文明を築き上げる

蒸気と鋼により訪れた、この新たな時代こそ…
”高次元蒸気開拓時代”である―――

ギアス ~始まりの鼓動~ 後編

【登場人物】

ゼファ 男性
蒸気駆動型可変式拳銃で窮地を脱する本作の主人公
貧民街出身の青年 ぶっきらぼうで負けず嫌いな性格
武器の扱いに秀でており、腕っぷしも強い
黒い髪に金色の瞳 パイロットゴーグルを愛用する

シュナイザー 男性(女性が演じてもOK)
主人公の相棒で機械オタク
身長が低く、華奢でひ弱な印象だが
頭脳明晰で他人を思いやれる優しい性格
栗色の癖っ毛に深い緑色の瞳とモノクル

メル 女性

拉致されている少女 とても可愛い

本作のヒロインにして物語の”核”となる存在
色白の肌にプラチナブロンドの髪、薄い青色の瞳

​ナレーション兼任

ヨウェル 男性
北の大陸”オグマ”を統べる男

軍事国家クロム帝國の最高司令官
力と権力そしてカリスマ性があり、

口調も丁寧で紳士的だが性格は外道
プラチナシルバーの髪と紫の瞳

【サブキャラクター】

ルーツ
”蒸気駆動式機械人形”(スチームドール)
その巨体と鋼鉄の拳から炸薬式で放たれる一撃が驚異
人工知能搭載型で、言語機能こそないが、

頭部の信号ライトによるコミュニケーションが可能

シュナイザー作 "あるモノ"に変形できる

アインスタイン
オーバー・カタストロフ後、最初に活躍した発明家
絶滅した犬や猫といった動物型スチームドールを開発し

人々に喜びと希望を与えた偉大な人物
人型の作成も行っていたがあくまで見た目は玩具であり
”人間”に似せて創る事には反対姿勢をとっていた 故人


前編は…コチラ


【場面転換】旧運搬施設内部 15時15分PM
メル:
N『乾いた風が流れ込む深き谷…
打ち捨てられ、錆びた金属達が
切ない音色を奏でるその先で、
羽根を休めるかのように
一隻(いっせき)の飛空艇が
その淵(ふち)に泊まっている
物悲しさが漂うソコに、灯りが一つ
映る窓に、影が二つ…』

ヨウェル:
「外を見るのが本当にお好きですねぇ
しかし、そこからは出られませんよ
その強化セラミックガラスは
簡単に割れたりしませんので…」

後に居たヨウェルが話しかける

メル:
「…」

無言で外を見続けるメル

ヨウェル:
「快(こころよ)く思わないのは解ります
ですが…」

ヨウェルがそう言いながら
メルの隣まで近づく

ヨウェル:
「御覧なさい…この世界を
荒廃(こうはい)した大地
荒(すさ)みきった空気
荒れ果てた人々の心
かつての美しさなど何処にもない…
こんな醜い世界を、”蘇らせたい”
そうは思いませんか?」

メルの肩に手を置くヨウェル

メル:
「ッ―――」

ヨウェル:
「私に身を委(ゆだ)ねて下されば、
結果として多くの人々が救われるのです…」

ヨウェルから離れるメル

メル:
「アナタに手を貸す気なんて、無い…」

ヨウェル:
「やれやれ…
いつまでもそんな態度で居ると
あの二人がどうなる事やら…」

メル:
「…ぇ?」

ヨウェル:
「先程訪れた街…なんと言いましたか
ああ、そうそう…ベレヌス…
とても綺麗でしたねぇ
あの街も、帝國の軍事力にかかれば
一晩で瓦礫(がれき)の山となるでしょう…
今のうちに良く考える事です
二人を救うチャンスかもしれませんよ?」

メル:
「そんな…」

ヨウェル:
「さて、私はこれから地下へ行きます
古い友人との再会です…
喜んで下さい?
”彼”を運び出すのに帝國艦隊が
こちらへ向かっているのですから」

メル:
「―――彼?」

ヨウェル:
「…いずれ、わかりますよ」

その場を後にするヨウェル
メルは不安そうに、
見ている事しかできなかった


【場面転換】旧運搬施設外部 同時刻
岩陰からマスク越しに辺りを見渡す二つの影
ゼファとシュナイザーである

シュナイザー:
「見つけた!やっぱりメルちゃんだ」

ゼファ:
「ホントか!何処だ?シュナイザー」

シュナイザー:
「飛空艇の正面、窓の近くだよ」

ゼファ:
「さすがだぜ…
後はどうやって侵入するかだな…」

シュナイザー:
「らしくないね?」

ゼファ:
「ぁん?」

シュナイザー:
「君がしたいように、すればいいんだよ」

ゼファ:
「コイツで、か…?」

コラプサーを取り出すゼファ

ゼファ:
「でもいいのか?いきなり使って」

シュナイザー:
「出し惜しみはしない、じゃなかった?」

ゼファ:
「そりゃそうだけどよ」

シュナイザー:
「撃ちたいんだろ、今回は僕も居る

それにほら、コレ」

ポケットから取り出したのは
銃の側面に収まる程小さな装置

ゼファ:
「何だコレ?」

シュナイザー:
「試作型のクイックチャージャーさ
本当はもっと精度を上げたかったけど、
四の五の言ってられない状況だからね
いざって時の為に、渡しとく」

ゼファ:
「シュナイザー…ありがとな」

シュナイザー:
「お礼は、メルちゃんを助けた後でね
だから勝とう…ゼファ」


ゼファ:
「…おぅよ」


コラプサーを構えるゼファ
 


【場面転換】旧運搬施設内部 15時20分PM
窓に背を向け、立ち尽くすメル
その表情はこれまでにない程
暗く、沈んでいる

メル:
「私がいけないの…?
何もできない…私が…」

落ち込み、ローブの裾を強く握る
突然の轟音
外を見れば、施設唯一の出入り口
封鎖された門に黒煙が立ち登っていた

メル:
「爆発…?もしかして―――」

門が破壊されると共に
投げ込まれた小さなボンベから
大量の蒸気が噴出し、
軍服達の視界を奪う
警報が鳴り響き、慌ただしい足音に紛れ
煙の中を突き進むゼファとシュナイザー

シュナイザー:
「いいよゼファ!」

ゼファ:

「さすが、シュナイザーお手製の
​"スチーム・ボム"だな…

この煙の中なら先に進める!」

シュナイザー:
「内部まで侵入できたは良いけど、
数に限りがあるから余裕は無いよ?
開けた場所だと効果も薄いし…
どうする?」

”ある物”に目をつけるゼファ

ゼファ:
「ッ!シュナイザー!
”アレ”に乗り込め!」

シュナイザー:
「わ、わかった!
レバーは僕がやるよ!
ゼファはバルブを回して!」

メル:
N『大型の”貨物トロッコ”に
急いで乗り込む二人
固く閉まったバルブを回そうと
力を入れるゼファ』

ゼファ:
「ぬぐぅう…!
動けぇええ!!」

バルブは錆び付いていて動かない

シュナイザー:
「よし…
”アクセルレバー”はなんとか使えそう…
ッ!?ゼファ!後ろに追っ手が!!」

煙を抜けてきた一人の軍服が
目と鼻の先まで迫っていた

ゼファ:
「わかってる!
コレでも…喰らえッ!」

メル:
N『”何か”を投げつけるゼファ
軍服の顔面にヒットし、昏倒させる』

シュナイザー:
「や、やるじゃん」

ゼファ:
「任せとけって!
いつでも良いぜ?シュナイザー!」

シュナイザー:
「飛ばすよ!?掴まって!」

メル:

N『レバーを倒し、アクセルを全開にすると
トロッコがレールの上を豪快に走り出した』

ゼファ:
「ふぃ~間一髪だったな」

シュナイザー:
「なんとか、撒けたみたいだね…」

後ろを見るシュナイザー
追っ手はまだ見えない

ゼファ:
「運が良かったな!

偶然、トロッコが転がってるなんて」

シュナイザー:
「運搬用に使ってた物なんだろうね
結構錆び付いちゃってるけど…あれ?
”ブレーキバルブ”は?」


メル:
N『見ると、先端にあったはずのバルブが
丸ごと無くなっている』


ゼファ:
「あ~…アレか!
うまく当たったろ!」

シュナイザー:
「…まさか、さっきの?」

ゼファ:
「おぅ、ついさっきな!」

シュナイザー:
「ブレーキ…どうするの」

ゼファ:
「さぁ?」

シュナイザー:
「さぁ?じゃないだろ!?」

ゼファ:
「良いだろ別に
取れちまったんだしさ?」

シュナイザー:
「良い訳あるかぁあ!」

ゼファ:
「落ち着けって、しゃーねーだろ?
逃げるのに必死だったんだから」

シュナイザー:
「まったくもー!」

ゼファ:
「ところでシュナイザー…
右と左だったら、どっちが良い」

シュナイザー:
「なっなに…こんな時に―――」

ゼファ:
「分かれてんだよ、”道”が」

シュナイザー:
「まさか!分岐点!?」

メル:

N『左右に分かれた道
その中央に置かれた装置』

シュナイザー:
「どうしよう!どうしたら!?
さっきの道はほぼ直線、
だけど反時計回りだったような…
でもでも、この施設の構造は広くないし
ここは左を!それとも…右?
いやいやそれとも―――」

ゼファ:
「決めて良いか?」

自信に満ちた顔のゼファ

ゼファ:

「俺を信じろ、シュナイザー」

シュナイザー:
「…うん」

メル:
N『装置に弾丸が撃ち込まれ、
トロッコの進路が変わる
選ばれたのは…”右”の道』

ゼファ:

「大丈夫だ」

シュナイザー:
「…ゼファ?」

ゼファ:
「”風”が、そう言ってる」

メル:

N『トロッコが速度を上げ、
火花を散らしながら突き進む
そして―――』

シュナイザー:
「ッ!出口だ!」

ゼファ:
「伏せろ!シュナイザー!!」

メル:
N『レールに仕掛けられた爆弾が炸裂
ブレーキの利かないトロッコが
横転し、勢いのまま投げ出される』

シュナイザー:
「うゎあ!」

ゼファ:
「どゎあ!」

メル:
N『転がって受け身を取るも、
そのトロッコに銃弾を撃ち込まれ
慌てて煙幕で身を隠す二人』

シュナイザー:
「ゼファ!大丈夫?」

ゼファ:
「ああ、なんとかな…
それより道、違ったか?」

シュナイザー:
「ううん、正解だったみたい
飛空艇は目の前だよ…でも」

ゼファ:
「これ以上先に進むのは無理か…」

シュナイザー:
「囲まれちゃったみたい…だね」

メル:

N『煙幕から数人の軍服が抜け出し、
二人に銃口を向ける』

ゼファ:
「こんな所で諦めてたまっかよ」

シュナイザー:
「そうだね…ちょっとキツイけど、
僕達でやるしか―――」

ゼファ:
「(どうする…コイツまで使うか…?)」

クイックチャージャーに手を伸ばそうとする

シュナイザー:
「待ってゼファ、様子が変だよ」

ゼファ:
「ん…なんだ…?」

メル:
N『軍服達が煙の中から出て来た
何者かの”手”に
一人、また一人と
つまみ上げられ、放り出される…
その手の正体は―――』

シュナイザー:
「ッ!ルーツ!?」

ゼファ:
「お前どうやって!?」

シュナイザー:
「そうか…
ゼファ、今のうちだよ
メルちゃんの所へ行って!」

ゼファ:
「な…シュナイザー…?」

シュナイザー:
「大丈夫だよ!ルーツも居る」

ゼファ:
「けど!置いて行くなんて―――」

シュナイザー:
「しっかりしてよ!僕達…仲間だろ?」

強い眼差しを向け、そして

シュナイザー:
「僕を、信じて」

伝わる、”意志”

ゼファ:
「…わかった
頼んだぜ、相棒」

メル:
N『煙に消えるゼファの背中を
優しく見守るシュナイザー』

シュナイザー:
「…ありがとう、ゼファ…
僕のたった一人の…親友…
さぁ、行くよルーツ!」

青年達は前に進む
互いが信じた”別の道”を…
己の誇りと、希望を胸に―――

 


【場面転換】飛空艇内部 15時50分PM
窓の外、黒煙に包まれた施設を見つめ
思い詰めるメル

メル:
「どうしたらいいの…
私は…どうするべきなの…」

小さな胸に不安を抱き
閉ざされようとしていた心…その時、
施錠された扉が乱暴に開け放たれ
そこから手を付いて
一人の影が現れる―――

ゼファ:
「よぉ…待ったか…?」

メル:
「ゼファ!」

ゼファ:
「…助けに来たぜ?
お姫様」

歓喜し、
駆け出そうとして

メル:
「ぁ…」

立ち止まるメル

ゼファ:
「ん…どうした?」

メル:
「…来ないで…」

ゼファ:
「…え?」

メル:
「来ちゃダメ…
ダメなの…」

顔を横に振り、
半歩下がるメル

ゼファ:
「メル…?」

メル:
「私は、いけないの…」

ゼファ:
「…どうしてだ?」

メル:
「逃げてもこの先…またきっと…」

ゼファ:
「俺がなんとかするさ」

一歩距離を詰めるゼファ

メル:
「でも…あの人達は武器を持ってて…」

ゼファ:
「俺も持ってる」

また一歩

メル:
「子供の…私達じゃ…」

ゼファ:
「ソレの何がいけねぇんだ」

また、一歩と距離が縮まる

メル:
「一緒にいちゃいけないの…!
いられないの…!」

ゼファ:
「…誰が、決めたんだ?」

メル:
「ぇ…」

ゼファ:
「お前か?」

メル:
「それは…だって…」

ゼファ:
「俺は、嫌だね
お前とじゃなきゃ…
メルとじゃなきゃ、嫌だ」

メル:
「ゼファ…」

ゼファ:
「言っただろ?
一緒に、行こうって」

メル:
「私…私は…」

目を伏せ、否定しようとするが

ゼファ:
「いつまでも、一緒だ
そうだろ?」

いつの間にか傍まで近づき、
同じ目線となって話すゼファ
その眼に宿るのは
揺るがない”意志”―――

メル:
「ゼファぁ…」

ゼファ:
「ッ…メル?」

ゼファに抱き着き
顔をうずめるメル
嗚咽はこらえても、
感情が零れる

メル:
「ごめん…なさい…
ほんとは…助けて欲しかったの…」

ゼファ:
「ああ、わかってる…
よく、頑張ったな」

メル:
「うん…ごめんなさい…」

ゆっくりと顔を上げるメル

メル:
「…ありがと…」

その優しい笑顔に、
そっと微笑むゼファ

ゼファ:
「さぁ、こっから―――」

ヨウェル:
「やれやれ…
騒がしいですねぇ」

それを断ち切るかのような
聞き覚えのある”声”

ヨウェル:
「侵入者が居ると聞いて来てみれば…
また貴方でしたか…懲りませんねぇ?」

ゼファ:
「そのきなくせぇ喋り方…
やっぱりテメェか…ゲス野郎!」

ヨウェル:
「…私の名前はヨウェルです、ゼファ君…
今ならまだ”ごめんなさい”で
許して差し上げますよ?」

ゼファの握る拳に力が加わり、
ギリギリと骨が軋む

ゼファ:
「何様のつもりだ…!
ムカつくんだよ!!
テメェの事は最初っから
気に入らなかった!
大体なぁ!メルの事を、
アレだのソレだの
物みてぇに言いやがって―――」

ヨウェル:
「”物”ですよ」


一瞬の静寂


ゼファ:
「なん…だと…?」

ヨウェル:
「その”玩具”はとある発明家が
古代戦争の技術を用いて生み出した
戦闘兵器…”メアトゥエル”
有り体(てい)に言えば
”鋼鉄の人形”(スチール・ドール)…
つまりは、アンドロイドなのですよ」

メル:
「ッ…」

顔を背けるメル

ゼファ:
「メルが…機械…?」

ヨウェル:
「もっとも…
彼の愛娘(まなむすめ)をモデルとした為か
戦闘能力はオマケ程度の
出来損ないですが…
だ い じ ょ う ぶ
私がちゃんと”使える”ようにしますので
どうか、ご安心を―――」

メルに手を伸ばすヨウェル

ゼファ:
「ッ!メルに触るんじゃねぇ!!」

それを遮るゼファ

ヨウェル:
「ソレはアナタに扱えない”代物”です
大人しく、我々に渡して下さい?」

ゼファ:
「メルは、大切な”仲間”だ!」

メル:
「ゼファ…」

ヨウェル:
「おイタが過ぎますねぇ」

ゼファ:
「絶対に渡さねぇ…特に、
テメェみてぇなゴミクズ野郎にはな!」

怒りの表情で睨みつけるゼファ
首を横に振り、飽きれるヨウェル

ヨウェル:
「…仕方がありませんねぇ?
少しの間だけ、お相手しましょう…」

ゼファに向き、静かな戦闘態勢
漂う威圧感と…強者のオーラ

ゼファ:
「舐めてんじゃねぇええ!
オラァッ!ダァアッ!(二連撃)」

ヨウェル:
「やれやれ…危ないですねぇ」

ゼファの拳は届かない
既の所で全て、躱される

ゼファ:
「チィッ…ハァアアッ!」

すかさず弾丸を撃ち込む
が、その腕に容易く防がれる

ヨウェル:
「野蛮ですねぇ?」

ゼファ:
「クッ…銃弾が効かない…!?」

ヨウェル:
「その程度ですか?
では次は、此方から―――」

ゼファ:
「コレならどうだ…!
バースト・ブリット!!」

ヨウェル:
「…”反逆の火”(レーヴァテイン)」

ヨウェルの右腕に装着された機械から
光のような炎が噴出
弾丸は空中で斬られ、誘爆し
激しい爆風で辺りが煙に包まれる
至近距離での爆発
普通ならひとたまりも無い…
しかし―――

ゼファ:
「ッ馬鹿な!無傷!?」

ヨウェル:
「油断は、いけませんねぇ…」

ゼファ:
「ガハッ…」

鋭い掌底打ちを喰らい堪らず悶絶

ヨウェル:
「少し、強めにいきますよ?」

そのまま後方に吹き飛ばされるゼファ

ゼファ:
「ぐぅッぁあああ!」

壁に叩き付けられ、野垂打つ

ゼファ:
「ガッ…ァ…な、なんだ…
コイツのチカラは…!」

メル:
「ゼファ!」

ゼファに駆け寄り肩を支えるメル
ヨウェルがゆっくりと近づいて来る

ゼファ:
「ッグ…!」

ヨウェル:
「やれやれ…もう御仕舞いですか?
存外、あっけないものですねぇ…おっと」

突然けたたましい音と共に
ヨウェルの左腕の機械が赤く点滅する

ヨウェル:
「…名残惜しいですが
そろそろ、時間のようですねぇ
”あの子”も退屈でしょう…
こちらに招待しませんと」

ゼファ:
「一体なんの話だ…」

メル:

N『その時、飛空艇の天井が破壊され
何者かが”コチラ”を覗く
煙の中に薄っすらと浮かぶソレは
およそ数十メートルはあろうかという
機械の…”巨人”』

ゼファ:
「なっ…なんだ?コイツは…」

メル:
「ゼファ…私…怖い…」

ヨウェル:
「御紹介しましょう…
古代兵器”ブリンガー”
またの名を…地を踏み砕くモノ…
こちらに来る前に制圧させた
西の大陸から頂戴しましてねぇ?
ちょっとしたサプライズですよ」

巨人と目が合う二人
その拳が振り下ろされる

メル:
「きゃあ!」

ゼファ:
「メル!!」

とっさに庇い、転がる二人
先程までいた場所に、巨大な跡が残る

ゼファ:
「俺達を攻撃してきた?!
…いや、まさかメルを狙って…?」

ヨウェル:
「共鳴しているのですよ…
お姫様の”声”に
正確にはその中の
”チカラ”に―――でしょうか」

ゼファ:
「なに…?」

ヨウェル:
「さて…私は少し休むとしましょう
何分、激しい運動は久しぶりなもので…
潰されるのもご勘弁願いたいですしねぇ」

空いた穴へ左腕を上げ、
アンカーを射出して逃げるヨウェル

ヨウェル:
「この子も私に似て
珍しいモノが大好きなんですよ?
沢山、遊んであげて下さいねぇ…」

ゼファ:
「逃げるぞ!メル!」

メル:
「う、うん…」

メル:
N『崩れ、落ちてくる瓦礫を避けつつ、
巨人が破壊した窓からアンカーを打ち出し
施設裏手に降りる二人
一息つくも突如として影に飲まれ、
見上げれば黒い飛空艇が三隻
中でも特に大型の側面には

厳然と座した帝国紋章が刻まれていた
背を向け、走り出す
闇が広がる施設の内部へと…』


【場面転換】施設深部 16時14分PM
電球の寂しい灯りの中、
壁にしゃがみ込み
息を切らすゼファと
傍で座るメル

ゼファ:
「ハァ…ハァ…ッ
ここまで来たら、大丈夫だろ…」

メル:
「ゼファ…」

ゼファ:
「ん…どうした?メル?」

メル:
「…ごめんなさい…」

ゼファ:
「あぁ?なにがだ」

メル:
「…私が、人じゃなかったから…」

ゼファ:
「なんだ、そんな事か」

メル:
「だって…私は…兵器で…
戦争の道具で…でも…」

ゼファ:
「…」

メル:
「私は…なんにもなくて…
ゼファのように強くもなくて…
シュナイザーのように賢くもなくて…
ルーツのようなおっきな身体もなくて…」

ゼファ:
「…」

メル:
「私にも…チカラがあれば…
皆みたいになれたら―――」

ゼファ:
「メル」

メル:
「…」

言いながら不安そうに俯くメルに
強い視線を向けてゼファは、告げる

ゼファ:
「俺は誰かを羨ましいと思う事はあっても、
誰かになりたいと思った事は一度もないぜ?」

メル:
「ゼファ…」

ゼファ:
「お前には、”お前”の良さがある
…だろ?」

メル:
「…うん」

見つめ合う二人

シュナイザー:
「まったく…君ってヤツは、
かなわないなぁもー」

突然、ゼファの通信機から声が届く

ゼファ:
「シュナイザー!無事だったのか!」

メル:
「大丈夫?」

シュナイザー:
「うん、なんとかね?それよりゼファ…」

ゼファ:
「あぁ…今とんでもねぇ敵と戦ってる」

シュナイザー:
「古代兵器、地を踏み砕くモノ…だね」

ゼファ:
「知ってるのか?」

シュナイザー:
「此処からでも見えるよ、
文献でしか知らないけど
まさか戦う事になるなんて―――」

ゼファ:
「何か策は無いか?弱点は?」

メル:
「シュナイザー…」

シュナイザー:
「…ブリンガーは、古代言語で
”齎(もたら)す者”って意味なんだ…
ソイツは人に近い造形なんだよね?」

ゼファ:
「ああ、攻撃も単調、殴ったり踏んだり…
まるでデケェ子供だぜ…」

シュナイザー:
「だったら、コアは胴体…
人でいう心臓に近い場所にあると思う」

ゼファ:
「なんでわかるんだ?
腹の下とか、背中とか、頭かもしれねぇだろ?」

シュナイザー:
「…わかるよ、何かに凄く似せるって事は
それだけ”愛情”を注いでいる証拠だから」

ゼファ:
「それなら何とか成るかもしれねぇ…」

メル:
「ほんと…?」

シュナイザー:
「一縷(いちる)の望みだけどね…」

ゼファ:
「シュナイザー、アレを使うぜ?」

シュナイザー:
「クイックチャージャーだね?」

装置を取り出すゼファ

シュナイザー:
「ソレはコラプサーのシステムを
強制的にオーバークロックして、
一発だけ即時回復させるんだ
ただし、あくまで試作型…発動した後は
全てのチャージ時間がリセットされて
ソレ自体も半日は使えない
けど、使うなら…」

ゼファ:
「ああ、今しかねぇ…!
よし、これでエネルギーが一つだけ回復した
こういう絶望の中でこそ、光は強く輝くんだ」

メル:
「ゼファ…」

ゼファ:
「諦めんなメル、俺がついてる」

メル:
「うん!」

ゼファ:
「…そうこなくっちゃな」

シュナイザー:
「諦めない心―――
”ブレイブ・ハート”…」

ゼファ:
「コイツの、名前か?」

シュナイザー:
「…どうかな?」

ゼファ:
「ッフ…良いんじゃないか?」

シュナイザー:
「気を付けてね」

ゼファ:
「あぃよ」

コラプサーの銃身が展開し、
まるで炎の様に染まる
それと同時に
ゼファの闘志が、赤く燃える―――



【場面転換】帝國戦艦内司令室 16時29分PM
部屋の中央で佇む一人の男
映像を前にして腕を後ろ手で組み、
そのマスクに巨人の姿が映り込む

ヨウェル:
「とても楽しんでいるようですねぇ
外に出るのは数百年ぶりでしょう…
実に喜ばしい…
さぁ、見せて下さい?
アナタ方が、どう対処するのか」

突如として巨人の前方が煙に包まれる

ヨウェル:
「ほぉ?…あの煙は…なるほど、
鬼ごっこの次はかくれんぼですか…
やれやれ…本当に飽きませんねぇ?」

ノイズが走り視界不良となった映像を放置し、
窓際へと近づくヨウェル
そのマスクの奥の瞳は静かに、
しかし不気味に揺らめく


【場面転換】施設深部広場 16時30分PM
広場を覆う濃密な煙
あらゆる場所のパイプから蒸気が噴き上げる
それにより創り出された、煙幕である

シュナイザー:
「その煙すごいね、どうやったの?」

ゼファ:
「ここの施設のバルブを
片っ端から全開にしたのさ…
スチーム・ボムみてぇに
できんじゃねぇかと思ってな?」

シュナイザー:
「やるじゃん」

ゼファ:
「我ながら、だろ?」

シュナイザー:
「アイツ等の視界はたしかに防げた…でも、
ブリンガーはがむしゃらに攻撃してくる…
確実に撃ち込むには近づかないと―――」

ゼファ:
「俺に考えがある…
メル、ここで待ってろ」

メル:
「ゼファ…待ってる」

ゼファ:
「おう、行って来る」

シュナイザー:
「どうするつもり…ゼファ!?」

ゼファ:
「こう…すんだよ!」

メル:
N『走り出すゼファ
迷いは、ない
巨人の拳がゼファを襲う』

ゼファ:
「ッハァア!」

メル:
N
『唸りをあげて襲ってくる拳を
ギリギリの所で躱(かわ)す』

ゼファ:
「まだだ…!」

メル:
N『
風圧で押し返されそうになるが、
勢いのまま進むゼファ』

ゼファ:
「まだまだ…!」

メル:
N『巨人の手が薙ぐ様に迫る
それを躱し、進む』

ゼファ:
「もっとだ!」

メル:
N『続けて迫る拳を
また躱し、進む』

ゼファ:
「もっと!」

メル:
N『躱して、突き進む』

ゼファ:
「もっと!!」

メル:
N『ただ、前に向かって』

ゼファ:
「こ・こ・だぁあああ!」

メル:
N『巨人の右拳が
勢いよく地面に突き刺さる
そう、これは”あの時”の再現
突き刺さった腕を駆け上がるゼファ
胸部に照準を定め、吠える』

ゼファ:
「フ ァ イ ナ ル バ ー ス ト!」

メル:

N『コラプサーから蒸気が吹き上げ
放たれる、必殺の一撃
巨人の胸部に弾丸が突き刺さり
強烈な爆風で装甲を破壊する』

シュナイザー:
「すごい!すごいよゼファ!」

メル:
N『損傷し内部機構が露出
後ろに大きく体制を崩してそのまま』

ゼファ:
「よし…!やっ―――」

メル:

N『倒れずに、巨人の顔がこちらへ向く』

ゼファ:
「なに!?」

巨人はメルに向かって左手を振り上げ
そして…振り下ろされる

シュナイザー:
「危ない!!」

メル:
「きゃあ!!」

ゼファ:
「メル!!」

叩きつけられた手の勢いで
地面が割れ、隆起し
辺り一面が砂埃と土煙で覆われた

シュナイザー:
「ゼファ!メルちゃん!
二人とも大丈夫!?」

メル:
「あ…ぅ…」

ゼファ:
「う…ぐ…」

煙が薄っすらと晴れ、巨人の手と
瓦礫の下敷きとなっていたのは―――

メル:
「どうして…」

シュナイザー:
「まさか…ゼファ!?
おいしっかりしろ!!」

ゼファ:
「生き…てるよ…心配…すんな…」

息も絶え絶えで満身創痍のゼファ

メル:
「どうして助けたの…ゼファ…
私なんかの為に…こんな…」

シュナイザー:
「メルちゃん…」

ゼファ:
「メ…ル…」

メル:
「私なんて機械なのに…
戦争の副産物でしかないのに…!」

ゼファ:
「…同じさ…人も、機械も…
俺達は…何かの副産物なんかじゃねぇ…」

メル:
「ゼファ…―――!」

巨人の手が徐々にゼファにのしかかる
その重圧に身体中の骨が悲鳴を上げる

ゼファ:
「ぐぅ…ぐぁああああ!!」

メル:
「―――やめて…やめてぇえええ!!」

突如としてメルの身体が輝き
辺り一面が青白い光に包まれる

シュナイザー:
「ゼファ!メルちゃん!
通信機が…故障!?」

ヨウェル:
「なんと…あの”光”は…」

メルを中心として光が広がり、
その莫大なエネルギーで
首の装置は破壊され
粉々となって足元に転がる

ゼファ:
「メル…!お前…」

メル:
「思い出したの…
これが私の”チカラ”…
絶望を喰らい、希望を見出す
”革命”のチカラ―――」

脈動するように広がった光の中、
散ってしまった想いが集まるように
小さな光の粒がゆっくりと収束していく
近づく機械蟲達の光すら失われ、
光は新たなチカラへと生まれ変わる
それはまるで…”生命の奔流”

ゼファ:
「光が…集まっていく…」

メル:
「…大丈夫」

ゼファ:
「メル…?」

メル:
「私が…ついてる」

ゼファに寄り添い、
耳元で何かを伝えるメル

ゼファ:
「ッ!…あぁ、わかった…
一緒にやろう」

メル:
N『銃身が展開し、廃熱機構が剥き出しとなる
二人の指が銃のトリガーに添えられると
蓄えられていたエネルギーが迸(ほとばし)り、
バチバチと音を立てて電磁波が帯びて行く…
そして、紡がれる―――決意の言葉』


メル:
「(同時に)”エクリプス”…」

ゼファ:
「(同時に)”エクリプス”!」


メル:

N『解き放たれた弾丸が強烈な光を纏い
一瞬で巨人の胸を貫いた
その圧倒的な破壊力に
巨体が崩れ、消し飛ぶ』


【場面転換】帝國戦艦内司令室 16時44分PM
窓の外、光る球状のエネルギーと
そこから放たれた閃光を前に
一人呟くヨウェル

ヨウェル:
「―――”滅びの歌”(ギアス)…
やはりアレに託していましたか
”博士”もお人が悪い…」

部屋の中央、機械が取り付けられた
青白く光る装置に向かって話しかける

ヨウェル:
「ここは引くとしましょう…
あの範囲内では、私の身が持ちません
”今は”ね…ですが―――」

向き直り、歩き出す

ヨウェル:
「必ず手に入れますよ…
もうじきです…楽しみですねぇ」

暗がりに居る女性に話しかける

ヨウェル:
「”アナタ”も、そうは思いませんか?」

赤い瞳を持つ金髪の女性は、
その問いに答えず、ただ付き添う

ヨウェル:

「さぁ、行きましょう…
我々の理想とする”時代”を築く為に…」

そして二人は、扉の奥へと消えた


【場面転換】ベレヌス展望台 5時39AM
故郷を前に
見晴らしの良い場所から
夜明けを眺める3人

シュナイザー:
「で?どーするつもり?これから
って…聞かなくても決まってるか」

ゼファ:
「ったりめぇだろ、俺達に喧嘩売ったんだ
あの野郎、タダじゃあ済まさねぇよ…
メルも、一緒に行くだろ?」

メル:
「…うん、どこまでも一緒」

シュナイザー:
「なら、西の城塞都市に向かおう
正直な所、今の装備じゃ心もとないし
あそこなら此処より良い資源があるよ
最後に撃ったアレ…エクリプスだっけ?
アレの衝撃でコラプサーも限界だろ?」

ゼファ::
「…すげぇチカラだったなぁ
随分と無茶、させちまったよ…」

取り出した銃を眺めながら呟くゼファ
銃身に大きな亀裂が入り、
至る処のパーツが破損して
ボロボロになりながらも
最後まで共に戦った…”戦友”

メル:
「ゼファは悪くない…悪いのは、私…」

ゼファ:
「メルのせいじゃねぇよ!」

シュナイザー
「そうだよ!むしろ、凄く助かったんだから!」

メルを真剣に見る二人

メル:
「二人とも…ありがと…」

シュナイザー:
「だから、”耐えれる”ようにするんだ」

ゼファ:
「…できるのか!?」

シュナイザーを見る二人

シュナイザー:
「…作ったの誰だと思ってるの?
良い素材を使って更に強化するんだ
制圧させたって言ってたから、
あんまり残ってないかもだけど
その街を帝國から解放したらきっと
力になってくれる人も居るはずだよ」

ゼファ:
「さすがシュナイザーだぜ!」

メル:
「シュナイザー…すごい」

ゼファ:
「ん?でもよ…西を目指すってんなら遠いぜ?」

シュナイザー:
「嗚呼、それなら問題ないよ」

ゼファ:
「あぁ?」

メル:
「…?」

シュナイザー:
「ルーツ、”モード・チェンジ”」

メル:
N『シュナイザーの”合図”で
ルーツが動き出す…
首が後方に移動して格納されると
それに伴って胸の装甲がせり上がり
駆動部に固定されていたタイヤが
大きく露出して、前面に配置される
伸びた腕がその前輪を包み込んだ』

ゼファ:
「おいおい…聞いてねぇぞ…」

メル:
N『脚部パーツは関節部が展開
左右の補助タイヤは連結し、
一つのタイヤになって固定されると
伸びた廃熱機構が蒸気を吹き出し
同時に腰のパーツから
二つのサスペンションを搭載した
座り心地の良さそうなシートが現れた
所々むき出しでやや無骨ではあるものの
その風貌はまさしく大型の―――』

ゼファ:
「―――”バイク”に、変身するなんてよ…」

シュナイザー:
「”変形”ね、聞かなかったろ?」

ゼファ:
「けど、この広さじゃあ
二人しか乗れねぇな…」

メル:

N『大型とはいえ、所詮はバイク
特別製で荷物を載せる為か、
後部座席は少し広めの作りではある
が、確かに三人で乗るのは少し厳しい』

シュナイザー:
「君がメルちゃんを背中に乗せれば良い」

ゼファ:
「んなッ!」

シュナイザー:
「男の子でしょ~?」

メル:
「…私、重たいから…歩く…」

ゼファ:
「…だぁあああ!わかったよ!
乗せりゃ良いんだろ乗せりゃあ!!」

後部座席に飛び乗り
手を差し出すゼファ

ゼファ:
「…ほらよ」

メル:
「…?ゼファに乗るの…?」

ゼファ:
「は…はやくしろよ…」

メル:
「…うん!」

シュナイザー:
「さぁ準備は良いかい?
目指すは西の大陸ゴブニウの…」

ゼファ:
「城塞都市…”ケルヌーン”だな」

メル:
「…しゅっぱつ」

ゼファ:
「ああ!…いざ、荒野の果てへ!!」

メル:
M『砂煙を巻き上げ、
希望の欠片は西を目指す…
遠く…遠く…やがて影となり、
地平の彼方に消えたとしても
この物語は終わらない…

だって、私達の旅はまだ
はじまったばかりなのだから』





Fin.

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