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Second best cup of coffee–behind dispatc

​ブラック・ボックス

193X年

第一次世界大戦終結後のイギリスでは
今も尚、戦争による爪痕が色濃く残っていた…

人々の心は疲弊し、不満は募るばかり
欲求は呼応するかのように加速して、
国を内側から蝕んで行く

やがて肥大化した欲望の波は、
正常な世界にまで影響を及ぼす

非合法麻薬"レッド・ハート"
人智を超えた力を得る代わりに
赤い血の花を咲かせるという
恐怖の超人薬が、
世間を脅かしているのだった


これは、自由に見放された
1羽の鴉の物語―――

【登場人物】


レイヴン 男性
鋭い目つきと近寄り難い雰囲気を持つ今作の主人公
冷静な判断力、行動力を兼ね備えた漢
愛煙家であり、常にオイルライターを所持している
性格は皮肉屋で不愛想だが決して悪人ではない
ギャバジン生地の黒いトレンチコートがトレードマーク

武器はOMEN/V2リボルバーとハンティングナイフ

 

ラッシュ 男性
レイヴンの古い友人で、元同業者
明るく、気さくな性格のムードメーカー
現在は郊外でひっそりとBARを営んでいるが
持ち前の軽口が災いしてか、
"一部の客層"を除いてあまり人気がないようだ
レイヴンにとって頼れる相棒的存在
ネイビー色のダッフルコートを愛用している

武器はウィリーピート試作型発煙手榴弾

 

ボロス 男性
圧倒的なカリスマ性を持つ"レッドバロン"のリーダー
革手袋とキャメルのチェスターフィールドコートに
ロングマフラーを垂らして着用するザ・マフィア
長身で引き締まった肉体と威圧感を持ち、隙が無く
その眼はまるで泥のように濁っている

※一・二人称、口調変更可 (声真似等はご自由に)

リサ 女性
灰色のコートを着た黒髪の東洋人
容姿端麗で眉目秀麗だが無鉄砲な性格
冒頭で"何らかの理由"によりボロスに追われ
レイヴン達の居るBARに逃げ込んでくる
今作のヒロインにして、
物語の"カギ"を握る重要なキーパーソン

 

 

雨が降りしきる夜のイギリス
首都郊外にあるBARの扉が開き
備え付けられたベルが鳴る

 

ラッシュ:

「お、いらっしゃ…なんだお前か
いつものヤツかい?"レイヴン"?」

 

レイヴン:

「…ああ、頼む」
 

ラッシュ:

「はいはい、飽きないねぇ」
 

レイヴン:

「お互い様だ、"ラッシュ"…

お前にBARのマスターは似合わない」
 

カウンター席に腰掛けるレイヴン
ジッポライターを取り出し、
タバコに火を点ける

 

ラッシュ:

「(鼻歌)」
 

酒を注ぐラッシュ、すると
勢いよく扉が開き、そして閉まる
入り口にはずぶ濡れの女

 

ラッシュ:

「いらっしゃい♪」
 

レイヴン:

「……(目もくれずタバコを吹かす)」
 

カウンター席に座る女
 

リサ:

(息を切らしながら)

「つ、強いの…貰える…?」
 

ラッシュ:

「あー強いのね

ちょっと待ってて下さい?
確か、奥に…」

 

と言いつつ裏に引っ込むラッシュ
女は取り出したタバコに
火を点けようとする、が
雨に濡れたせいか、点かない

 

レイヴン:

「(タバコとライターの火を貸す)」

リサ:

「…ありがと…」
 

振るえる手でタバコを受け取り、吸う女
 

リサ:

「アナタもしかして…殺し屋?」
 

レイヴン:

「…刑事かもな?なぜそう思う」
 

リサ:

「コートの下にガンホルダーが見えたの、
それに刑事にしては、
随分雰囲気が違うから…」

 

レイヴン:

「とんだ名探偵だな」
 

リサ:

「ねぇお願い、かくまって」
 

レイヴン:

「断る」
 

リサ:

「報酬なら払うわ!
今手元に無いけど…千ドルは持ってる、
それで―――」

 

レイヴン:

「何度も言わせるな
ソイツを吸ったら、さっさと出ていけ
"出口"は通路の先だ」


出入口ではなく、裏口を顎で指すレイヴン
 

リサ:

「……わかったわ」
 

灰皿にタバコを押し付け、立ち上がる
 

ラッシュ:

「あれ?お酒、お持ちしましたよ?」
 

リサ:

「ごめんなさい、急用ができたの」
 

そう言い残し、裏口から急ぎ出ていく女
 

ラッシュ:

「…良いのか?美女を放っといて」

 

レイヴン:

「"こんな所"にいるよりはな
それに、俺と関わると
碌(ろく)な事は無い」

 

ラッシュ:

「そんなもんかねぇ…っておいおい!
"こんな所"ってなん―――」


扉がまた勢いよく開き、複数の男達と、
オーバーコートを羽織った男が入って来る


ラッシュ:

「いらっしゃ~…んん?」


歩み出るオーバーコートの男


ボロス:

「―――此処(ここ)に、

"女"が来なかったか?」


ラッシュ:

「さぁね?お客は沢山来るもんで」


レイヴン:

「嘘つけ(呟く)」


ボロス:

「東洋人だ…灰色のコートを着た、
反抗的で、忌々しい、"女狐"だ…」


ラッシュに詰め寄る男


ラッシュ:

「知りませんって…
お客さん、落ち着いて―――」


レイヴン:

「…失せろ、
この場の酸素が無駄になる」


静寂、睨み合うレイヴンと男


ボロス:

「ほぉ…それは、悪かったなぁ?
バーテン、その酒を寄越せ」


ラッシュ:

「あちょっと―――」


酒を奪い取り
テーブルに金を置くと
男は指で栓を抜き


ボロス:

「釣りはいらん…
"床"を汚してしまったからな?」


ドボドボとレイヴンに酒を浴びせる


ラッシュ:

「うわっちゃぁ~…」


ボロス:

「これは、私の、奢(おご)りだ」


レイヴン:

「…」


ボロス:

「邪魔したな?行くぞ…」


オーバーコートを翻し、
付き人達と共に去って行く男


ラッシュ:

「あー…大丈夫?はい、タオル」


タオルを受け取り、顔を拭くレイヴン


レイヴン:

「なぁに…
浴びる程酒を飲むのも悪くない」


ラッシュ:

「またまた、

けど、アレはヤバいね~
レッドバロンの"ボロス"だ」


レイヴン:

「知っているのか?」


ラッシュ:

「勿論、ここいらじゃ有名なワルさ?
泣く子も黙る"赤紳士"…知らない?」


レイヴン:

「知らんな、興味も無い」


ラッシュ:

「最近頭角を現してきたマフィアのボスさ
前に、この街を仕切ってた武装集団を
力でねじ伏せたって話だ
しかも"たった一人"で…
いやはやまったく、おっかないねぇ~」


レイヴン:

「そんな風には見えなかったが…」


ラッシュ:

「人は見掛けによらないのかもよ~?
案外、武術の達人だったりして!」


アチョ~!とジェスチャーするラッシュ


レイヴン:

「…帰って寝る」


チップを置いて席を立つレイヴン


ラッシュ:

「おいおい冗談だって―――
あ、でもそれは良いかもな?
酔い覚ましにシャワー浴びたら?
臭うよ?」


レイヴン:

「お前はいつも一言余計だ」


店を出るとまたタバコを吹かし
トレンチコートの襟を立てて
雨の中を歩いて行く、すると


レイヴン:

「…ん?」


路地裏で蹲っている人影を発見
それは先程BARで見かけた女
撃たれたのか手傷を負っている


リサ:

「助…けて…」


そのまま倒れる女


レイヴン:

「お前…」


女を見下ろすレイヴン
雨が、激しさを増していた―――

 


【場面転換】アジト内部
女が目覚めた場所はベッドの上
そこは赤レンガと草臥れた家具が
無造作に置かれた無骨な部屋だった
所々塗装は剥がれ、床は傷んでいる


リサ:

「…此処は―――」


レイヴン:

「目が覚めたか」


リサ:

「!…ア、アナタは!」


近くのソファに腰掛けていたレイヴンを
敵でも見るかのように警戒する女


レイヴン:

「助けを求めておいてその反応か?
…やれやれだな」


リサ:

「私に何をしたの」


レイヴン:

「お前が考えているような事は何も無い」


ラッシュ:

「そうだよ~?お嬢さん」


部屋の奥、台所のカウンターに居たのは
やはりBARのマスター、ラッシュ


リサ:

「どうして…」


ラッシュ:

「怪我をした君を彼が助けた
彼が君を手当してベッドに寝かせた
その後、彼は俺に助けを求めた
だから今、俺と君は此処に居る♪」


レイヴン:

「食料調達を頼んだだけだ」


ラッシュ:

「あ~正確には
"猫"を拾ったって言われた」


レイヴン:

「うるさいぞ」


リサ:

「…フフ、おかしな人達」


キョトンとする二人


ラッシュ:

「回復したようで何より、
そうだ珈琲飲む?
ウチの"裏メニュー"
オリジナルブレンドで自信作なんだ」


リサ:

「頂くわ?」


レイヴン:

「"また"持ってきたのか」


ラッシュ:

「良いだろ?減るもんじゃないし」


レイヴン:

「…好きにしろ」


用意されたのは深みのある
色の濃いブラックコーヒー
一口飲んでみる
酷く…マズイ
とてつもなく苦いのだ


リサ:

「苦い…紅茶の方が好き」


ラッシュ:

「この苦味が良いんだよ~!
けど、合う合わないはあるかぁ
砂糖、持ってくるよ」


台所に走るラッシュ


リサ:

「アナタも、こう言うのが好き?」


レイヴン:

「…ああ(肯定)、
世間と一緒で目が覚める」


リサ:

「ふぅ~ん、そ?
私は"リサ"、アナタは?」


レイヴン:

「名は棄(す)てた」


ラッシュ:

「おいおい、そりゃないだろレイヴン?
せっかく助けた女の子じゃないか」


砂糖の瓶を持って戻ってきたラッシュ


レイヴン:

「ただの気まぐれだ」


リサ:

「レイヴンって、言うのね?」


レイヴン:

「…好きに呼べ」


ラッシュ:

「つれないなぁ?
あ、俺の名前はラッシュ!
よろしくな、リサさん?」


握手を求めるラッシュ


リサ:

「え、ええ(肯定)
…よろしく」


握手を交わすリサ


ラッシュ:

「なんで追われてたの?
奴等ヤバい連中だろ?
…何かあった?」

リサ:

「私を追ってたのはマフィアよ
レッドバロンって言う…
アイツ等の事、知ってるの?」


ラッシュ:

「全然?」


レイヴン:

「おい」


リサ:

「…どうかした?」


訝しむリサ


ラッシュ:

「いや?なんにも?
マフィアに追い駆けられるなんて
リサさんは災難だったな~
で、なにやったの?

警察にも言えないワケがあったんだろ?」


押し黙るリサ
徐に黒い小箱を取り出し
二人に中を見せる


リサ:

「…"コレ"よ
私はコレを取り返しただけ」


ラッシュ:

「ん?ナニコレ」


リサ:

「―――"レッド・ハート"…」


ラッシュ:

「え?今、噂になってる?」


レイヴン:

「…(目を細める)」


リサ:

「聞いたことが?」


ラッシュ:

「世間じゃコイツの話題で持ち切りさ!
犯罪絡みってなるとほぼ関わってる…
信じられない"力"を引き出す代わりに、
使用者には赤い血の花が咲くっていう
裏世界の超人薬―――」


リサ:

「詳しいのね…」


ラッシュ:

「"お客さん"から、ちょっとね!
でもどうして君が?」


リサ:

「…殺された私の父が作った物なの
病気や怪我で弱っている人を助けるんだって、
枯れた花が、息を吹き返すようにって…」


ラッシュ:

「死んだ肉体を、蘇らせる"薬"…」


リサ:

「父の研究は細胞の活性化を
促(うなが)す物だったの…
純粋に、生きる為の力になればと
毎日、夜遅くまで研究室に籠って」


レイヴン:

「だが出来上がった物は、
"毒"だった…か」


リサ:

「人聞きの悪い事言わないで!?
確かに、副作用はあるわ…
でも、私が知ったのは
中毒性があるって事だけ!」


レイヴン:

「現に人が死んでるんだぞ」


リサ:

「…ッ!それは…!」


ラッシュ:

「レイヴン…彼女のせいじゃない
それに、"変"だ…
聞いてたのとはだいぶ色味が違う
噂になってるのはもっとどす黒いんだ
コイツはどっちかっていうと真紅に近い
言っちゃなんだけど、"綺麗"だ
とても同じ物とは思えない…
出回ってる物が複製品か
あるいは―――」


レイヴン:

「"偽物"、か」


リサ:

「偽物…そうよ!アイツ等だわ!」


立ち上がって訴えかけるリサ


リサ:

「アイツ等は私の父を殺して
コレを奪った後、量産を計った…
でも、コレは父が何年もかけて
ようやく完成させた"新薬"
成分を解析しようにも、
その複雑な配合で文字通り
"ブラックボックス"と化してたんだわ
だから簡単には真似できない…
偽物を作る事しかできないのよ!」

 

荷物をまとめ、コートを羽織るリサ


リサ:

「私、その証拠を掴んでみせるわ」


ラッシュ:

「無茶だ!相手はマフィアだぞ?!
殺されるのがオチだ!」


リサ:

「これは私の家族の問題よ

それにもう、
誰かが傷つくのは…見たくないの
…珈琲、ありがとう」


そう言って出て行くリサ


ラッシュ:

「おい!リサさん!」


レイヴン:

「止めてやるな、ラッシュ」


ラッシュ:

「でもよレイヴン!
泣いてたぜ…彼女」


レイヴン:

「…そうだな」


ラッシュ:

「か弱い女の子だぞ!
すぐに捕まるに決まってる!
それを黙って見てろってのか?!
ソレが"正しい事"なのか!?」


詰め寄るラッシュ


レイヴン:

「俺は自分が正しいと思った事など
一度も無い…
重要なのは、納得しているかどうかだ
俺達には"やるべき事"がある
…そうだろ?」


机の上の箱を見るレイヴン


ラッシュ:

「レッド・ハート!?
…きっと俺達に託したんだ

捕まる事を、承知で…
そんな事じゃ、何も解決しないのに!」


レイヴン:

「"ノブレス・オブリージュ"…」


箱を手に取るレイヴン


ラッシュ:

「レイヴン…」


レイヴン:

「…場所は分かるか」


ラッシュ:

「廃工場、第13番倉庫だ
奴等は今そこに居る」


レイヴン:

「相変わらず頼りになるな、情報屋」


ラッシュ:

「"元"だよ…
俺も準備をしたらすぐ向かう
けど、何があるか分からない
気を付けろよ、レイヴン」


レイヴン:

「…だろうな
あの泥のように濁った眼、
一筋縄では行かないだろう」


ラッシュ:

「元刑事の”勘”か?」


レイヴン:

「…"経験"だ」


鴉は、敵地へと向かう―――


【場面転換】廃工場第13番倉庫 地下
薄暗い地下倉庫
部屋の中央、二つの人影が
電球の下で揺らめいている
縛られたリサと
対面するボロス

ボロス:
「驚いたぞ?まさか、
のこのこ戻って来るとはなぁ?
…何をしていた?」

リサ:
「なんでも良いでしょ
早く此処から出して!」

ボロス:
「レッド・ハートは、何処にある」

リサ:
「…知らないわ、
無くしたの」

ボロス:
「隠しても無駄だ
貴様の父親が開発した"新薬"…
アドレナリンの大量分泌、
心拍数の増加に伴(ともな)う、
判断力と、反射神経の向上に加え、
あらゆる身体強化を実現し
その美しさから"東洋のハイビスカス"
と名付けられた…究極の、
"麻薬"―――」

リサ:
「…違う!麻薬じゃないわ!?
父は、人の為を思って作ってた!
そんな父が作った薬が…
麻薬である筈がないわ!」

ボロス:
「違わないな…
麻酔の代わりに麻薬を使うというのは、
この世界において、
ごく自然な事なのだ…」

胸ポケットから銀色の小箱を取り出し、
片手で開けて見せる
箱の中に入っていたのは
赤黒い液体が詰まった小さな注射器

リサ:
「な…ソレは!?」

ボロス:
「我々が作った"模造品"、私はコレを
"ブラッド・ハート"と呼んでいる
裏ルートで出回っているのは、
コレを元にして作成した"粗悪品"だ
―――だが、コレとて失敗作、
私以外の人間が使えば、
副作用ですぐに体が壊れてしまう…
完全な生成にはやはり、
貴様の持つ"オリジナル"が
どうしても、必要なのだよ」

リサ:
「その為に何人の人が
犠牲になったと思ってるの!?
この、人でなし!」

ボロス:
「…在処(ありか)を言わなければ、
より多くの犠牲が出るだけだ
貴様の父親もそれでは報われまい?」

リサ:
「ッペ!(ボロスの頬に唾を吐く)」

ボロス:
「ぬ…!」

リサ:
「アンタは紳士じゃない、悪魔よ
血と欲に塗(まみ)れた、
醜い、悪魔…!」

顔に付いた唾を拭うと、
リサの身体に触れるボロス

ボロス:
「今夜は、ゆっくり
楽しませて貰うとしよう…」

リサの顎に手を添えるボロス

リサ:
「クッ…殺して…」

その目には薄っすら涙が溢れる

ボロス:
「フフフフ…む?
何だ、この揺れは」

突然の地響き
急ぎ通信機器を使うボロス

ボロス:
「…私だ、上で何があった」

レイヴン:
「無駄だ、もうお前に仲間はいない」

振り返るボロス
銃を構え、歩み出るレイヴン

ボロス:
「貴様は、あの時の…?
単騎で乗り込んでくるとは
中々、威勢の良い事だな?
…何者だ」

リサ:
「レイヴン!」

ボロス:
「"レイヴン"だと…?
そうか…貴様が―――」

レイヴン:
「ハッ!(蹴る声)」

レイヴンの鋭い上段蹴り
しかし、片手で防がれる

ボロス:
「ほぉ…良い踏み込みだ
だが、そんな攻撃で私は倒せん」

レイヴン:
「お前の部下は全員眠った
後はお前一人だけだ
大人しくリサを解放しろ」

ボロス:
「…フフフフフ
ハハハハハハ…!」

レイヴン:
「何がおかしい」

ボロス:
「…よかろう
貴様にも見せてやる
選ばれた者にしか手にできない、
圧倒的な"チカラ"を…!」

レイヴン:
「何?」

ボロス:
「フン!」

リサ:
「きゃあッ!」

ボロスがリサを突き飛ばし

レイヴン:
「リサ!!」

レイヴンがリサを受け止める
その隙に注射器を取り出して、
胸に突き刺すボロス

リサ:
「奴を止めて!"アレ"を使う気よ!」

ボロス:
「…もう、遅い」

レイヴン:
「―――ッグハ!?」

リサ:
「レイヴン!」

勢いよく蹴り飛ばされ
豪快に転がるレイヴン
ボロスは一瞬で距離を詰めていた
人間ではありえない速度で

レイヴン:
「クッ!」

堪らず銃を撃つレイヴン

ボロス:
「効かんな」

華麗に、鮮やかに、
弾丸を躱していくボロス

レイヴン:
「なんだこの動きは…
本当に人間なのか?!」

リサ:
「まるで、化物…」

ボロス:
「無駄だ…
もはや私に銃は通じん」

レイヴン:
「チィッ…ん!?」

ボロス:
「ッ!コレは…"煙幕"?」

濃霧のような煙に消えるボロス

ラッシュ:
「レイヴン!リサさん!こっちだ!」

通路からラッシュの声

レイヴン:
「この隙に逃げろ、リサ」

リサ:
「レイヴン…?」

ラッシュ:
「何してるんだ!
早く逃げないと―――」

レイヴン:
「ラッシュ…リサを頼む」

駆け付けたラッシュだが何かを悟る

ラッシュ:
「レイヴン……予備の発煙弾だ
いざって時は使ってくれ
…死ぬなよ」

発煙弾を1つ渡す

レイヴン:
「…必ず戻る」

背を向けるレイヴン

リサ:
「でもレイヴン―――」

レイヴン:
「此処は俺に任せろ!
走れ!振り返るな!!」

リサ:
「…待ってるわ」

煙が徐々に収まり、視界が晴れる

ボロス:
「…女を逃がしたか」

レイヴン:
「お前の相手はこの俺だ」

ボロス:
「英雄にでもなったつもりか?
まぁ良い…どの道、
オリジナルが手に入れば用は無い…
すぐに、後を追わせてやろう」

レイヴン:
「俺がさせない」

ボロス:
「…行くぞ、レイヴン」

※声で攻撃と防御をしてください

ボロス:
「ハアッ!(など相手に攻撃)」

レイヴン:
「ック!(など声に合わせて防御)」

※アドリブ自由、満足行くまで延長可
しばらく攻防が続き、一呼吸

ボロス:
「ほぉ、私の攻撃をこうも耐えるか
…大したものだな?
流石は元陸軍航空隊、いや…
"ロイヤルエアフォース"の一翼
と言った所か…よく見ている」

レイヴン:
「…その"過去"は捨てた」

ボロス:
「捨てられんよ…
"過去"があるから"今"がある」

レイヴン:
「…何が言いたい」

ボロス:
「私は、かつて"准(じゅん)将"だったのだ
多くの者を先導してきた…
大戦を終えた後でも、
私は"勝利"を求め続けた
しかしあろう事か、軍部の上層は
束の間の平和に甘んじた…
故に私は、自ら軍を除隊したのだ
この世は"混沌"に飢えている…
いずれまた、新たな戦争がやってくる!
世界は!再び戦火に巻かれるのだ!!」

レイヴン:
「そんな事はない!
人は歩み寄れる…
違いがあったとしても、
分かり合えるはずだ!」

ボロス:
「"奪い"そして、"争う"
それこそが人間の"本能"だ!
…私と共に来い、レイヴン
我々ならばできる
このチカラで、来たるべき
"未来"を創り上げるのだ
それが、"運命"だ!」

レイヴン:
「"運命"など無い!
あるのは過程と、その結果だけだ
お前のつまらん予言に興味はない」

ボロス:
「貴様一人に何ができる?
何の覚悟も、力も無い…
地に堕ちた鴉(からす)に!」

レイヴン:
「―――"チカラ"なら、ある」

ボロス:
「…何?」

レイヴン:
「俺には…"覚悟"が足りなかった」

ポケットから黒い小箱を取り出す

レイヴン:
「今、できた…」

中にあった注射器を胸に刺すレイヴン

ボロス:
「まさか…レッド・ハート!」

ボロスが掴みかかる

レイヴン:
「―――ッ!」

が、レイヴンは後方に回避した
今までにない跳躍力と速度
心臓が高鳴り、
血液が全身を駆け巡る
"超人の感覚"が身体を支配していく

ボロス:
「…どうやら、
貴様を少々見くびっていたようだ
本気で行かせてもらおう…」

構えるボロス

ボロス:
「貴様を殺し、その血を頂く…
そして新薬を完成させ、
衰える事のない肉体を
私は手に入れる…!」

レイヴン:
「お前のような外道は、
この俺が…"狩る"」

トレンチコートの下から
大型のシースナイフを取り出すレイヴン

レイヴン:
「決着を付けるぞ、ボロス!」

発煙弾を上空に投げる

ボロス:
「また煙幕か?小賢しい真似を―――」

レイヴン:
「"チェック"!」

ナイフを投げ付け、発煙弾に当たる
衝撃により発煙弾は空中で炸裂
至近で被弾したボロスのコートに火が着く

ボロス:
「―――ッ!?グォアァ!炎がぁああ!」

慌ててコートを脱ぎ捨てるボロス
照準を合わせるレイヴンそして―――

レイヴン:
「"チェック・メイト"」

撃ち込んだ弾丸はボロスを貫き
致命傷を与える

ボロス:
「ゴッハァアアア!」

よろけ、息も絶え絶えに
壁に凭れ掛かるボロス

ボロス:
「バカな…
この私が敗れるとは…
…運命に選ばれたのは
貴様の方だったとでも言うのか…」

レイヴン:
「運命など無いと言ったはずだ…
"未来"は自分の手で切り拓く
それが、人の"可能性"だ」

徐々に力が抜けていき
地面に座るボロス

ボロス:
「フフフフ…
そんな甘い世界ではない
優しいだけでは、
生き残る事はできんぞ…」

レイヴン:
「…優しくなければ、
生きる資格すらない」

眼の生気が無くなっていくボロス

ボロス:
「ならば抗え、鴉よ…
どこまでも抗うが良い…
私が、そうしたように…
己の…信念を……
貫(つらぬ)いて…行、け……」

そう言い残すと
遂にボロスは力尽きた―――

レイヴン:
「…お前のようには、ならないさ」

背を向けて、歩き出すレイヴン
外に出ると、ラッシュが駆け寄る

ラッシュ:
「おーい!レイヴン!!」

レイヴン:
「…ラッシュ」

ラッシュ:
「大丈夫か!?奴は―――」

レイヴン:
「死んだ…
リサは無事か…?」

ラッシュ:
「ああ!勿論さ!アジトで待ってる!」

レイヴン:
「そうか…ゴフッ」

崩れ落ちるレイヴン

ラッシュ:
「レイヴン?おいレイヴン!
…副作用か?!畜生ッ!!」

レイヴン:
「人はいつか死ぬ…
それが早いか遅いかだ…」

ラッシュ:
「らしくないぞ!諦めるのか!?」

レイヴン:
「いや、眠るだけだ
少し、疲れた…」

ラッシュ:
「ダメだレイヴン!」

レイヴン:
「……(目を閉じる)」

返事は、無かった

ラッシュ:
「そんな…レイヴン……
バカ野郎ぉ…!」

レイヴンを抱きしめ涙を流すラッシュ
雨音が優しく二人を包み込む
それまでの"罪"を
洗い流すかのように―――


【場面転換】BAR店内
ベルが鳴り、来訪者を伝える

ラッシュ:
「いらっしゃ…リサさん!」

リサ:
「こんにちは、ラッシュ」

ラッシュ:
「その荷物は?お出かけかい?」

リサ:
「もうすぐ日本に帰るの
最後に顔を出しておきたくて…」

ラッシュ:
「せっかくだし、何か飲んでく?」

リサ:
「そうね…紅茶を貰うわ?」

ラッシュ:
「はいはい、ちょっと待ってね」

紅茶を淹れるラッシュ

ラッシュ:
「どうぞ」

リサ:
「ありがと…
良い人だったわね、"彼"…」

ラッシュ:
「……え?」

リサ:
「最初は横顔だけの男かと思ってたけど
愛想も無いし、ぶっきら棒だし…」

ラッシュ:
「あ~…その、リサさん?」

リサ:
「あんな男、他にもいるって…でも」

ラッシュ:
「いや、だからリサさん」

リサ:
「私、レイヴンの事忘れない
…命の恩人だもの」

レイヴン:
「…勝手に殺すな」

店奥の席からレイヴンの声

リサ:
「レイヴン!?」

ラッシュ:
「あ~言ってなかったけ?
彼、生きてるよ」

リサ:
「…今聞いた
でもどうして―――」

ラッシュ:
「"カフェイン"だよ…
珈琲に含まれる強めのカフェインが、
偶然レッド・ハートを中和したんだ
おそらく、もう大丈夫だよ
暫(しばら)くは安静だけどね…」

リサ:
「そうだったの…
連絡してくれたら良かったのに…」

ラッシュ:
「付きっ切りだったんだ!
本当に一度は死にかけてたんだからな?
ったく、無茶しすぎだぞレイヴン…」

レイヴン:
「…フン」

リサ:
「また話せて、嬉しい…
あ!そうだわ…コレ
少ないけど報酬―――」

差し出された札束の
一番上だけを抜き取るレイヴン

レイヴン:
「確かに」

リサ:
「ぇ…一枚だけ?」

レイヴン:
「…タバコ代だ」

リサ:
「レイヴン…ありがとう」

ラッシュ:
「あれ?リサさん、時間は?」

リサ:
「いけない!飛行機の時間!
もう行かなくちゃ…」

ラッシュ:
「そっか、元気でねリサさん」

レイヴン:
「…転ぶなよ」

リサ:
「本当にありがとう!
二人に会えて良かったわ!
じゃあ…またね!」

店を後にするリサ
その足取りは軽快で、明るい

レイヴン:
「騒がしい女だ」

ラッシュ:
「また、会えると良いな」

レイヴン:
「…勘弁してくれ」

ラッシュ:
「そういえば、
"裏メニュー"なんだけど…」

レイヴン:
「ん?」

ラッシュ:
「リサさんの助言もあってね?
ちょっと改良して…
こんな風になった」

ラッシュがテーブルに置いたソレは
カクテルグラスに注がれた
薄っすら透き通る、黒くて四角い
ゼリー状の小さな"物体"
上には白いアイスクリームと
ミントの葉が一枚乗せられている

レイヴン:
「…"コレ"は?」

ラッシュ:
「オリジナルのブレンド珈琲を
ゼラチン素材で固めて、
バニラアイスを添えてみた
ミントはおまけ♪
はいスプーン」

レイヴン:
「ふむ…」

ラッシュ:
「苦いのが好きな人と
そうじゃない人がいるからさ?
まぁ試しに―――ってもう食べてる
…どう?」

レイヴン:
「悪くない」

ラッシュ:
「素直じゃねぇなぁ~でも良かったよ
じゃ、"コイツ"で決まりだな」

レイヴン:
「珈琲は苦みが味じゃなかったのか?」

ラッシュ:
「デザートは甘い物だ!
そーゆーレイヴンこそ、
苦手じゃなかったか?甘いの?」

レイヴン:
「偶(たま)には"甘さ"も欲しくなる」

ラッシュ:
「またまた…
そうだ、コイツの"名前"なんだけどさ」

レイヴン:
「決めてないのか?」

ラッシュ:
「いや、実は決まっててな…
ソレを"合言葉"にしたんだ
その手の友人にも伝えてあるから
近々、"客"が来るかもな?」

レイヴン:
「楽しみだ…」

ベルが鳴り、来訪者を伝える

ラッシュ:
「あっ…いらっしゃい!」

リサ:
(N)扉が開き、ベルが鳴る
それはきっと、新たな物語の…

ラッシュ:
「―――"ご注文"は?」

リサ:
(N)はじまりを告げる『合図』―――





Fin.

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