

スチーム・アンド・スチール
四大陸間が引き起こした世界戦争と、
その後の大災害によって
文明が再び”火の時代”となった未来…
荒野と化し、動植物がほぼ死に絶え
先の見えない濃霧に包まれた大地で
光を目指し、抗い続ける者達が居た
危険を顧みず、如何なる困難をも乗り越え、
各地に散らばる資源を探し、追い求める者達…
いつしか人々は彼らを”探求者”と呼んだ
そして遂に、彼らの齎した”ある恩恵”の力で
人類は蒸気熱を用いる機械文明を築き上げる
蒸気と鋼により訪れた、この新たな時代こそ…
”高次元蒸気開拓時代”である―――
ギアス ~始まりの鼓動~ 前編
【登場人物】
ゼファ 男性
蒸気駆動型可変式拳銃で窮地を脱する本作の主人公
貧民街出身の青年 ぶっきらぼうで負けず嫌いな性格
武器の扱いに秀でており、腕っぷしも強い
黒い髪に金色の瞳 パイロットゴーグルを愛用する
シュナイザー 男性(女性が演じてもOK)
主人公の相棒で機械オタク
身長が低く、華奢でひ弱な印象だが
頭脳明晰で他人を思いやれる優しい性格
栗色の癖っ毛に深い緑色の瞳とモノクル
メル 女性
拉致されている少女 とても可愛い
本作のヒロインにして物語の”核”となる存在
色白の肌にプラチナブロンドの髪、薄い青色の瞳
ナレーション兼任
ヨウェル 男性
北の大陸”オグマ”を統べる男
軍事国家クロム帝國の最高司令官
力と権力そしてカリスマ性があり、
口調も丁寧で紳士的だが性格は外道
プラチナシルバーの髪と紫の瞳
【サブキャラクター】
ルーツ
”蒸気駆動式機械人形”(スチームドール)
その巨体と鋼鉄の拳から炸薬式で放たれる一撃が驚異
人工知能搭載型で、言語機能こそないが、
頭部の信号ライトによるコミュニケーションが可能
シュナイザー作 "あるモノ"に変形できる
アインスタイン
オーバー・カタストロフ後、最初に活躍した発明家
絶滅した犬や猫といった動物型スチームドールを開発し
人々に喜びと希望を与えた偉大な人物
人型の作成も行っていたがあくまで見た目は玩具であり
”人間”に似せて創る事には反対姿勢をとっていた 故人
―――カーネイジ砂岩地帯 1時00分AM
メル:
N『夜の帳(とばり)が降りる荒れた大地…
その暗がりを掻き分け、
濃霧を突き進む一つの光があった
煙を巻き上げながら進む”ソレ”は
軍旗が刻まれた特別な蒸気機関車
所謂(いわゆる)、”装甲列車”である
その車両の一室
座って外を見ているローブ姿の少女と、
後ろで手を組んで立つペストマスクの男
顔を合わせてはいない…』
ヨウェル:
「…霧が濃くなってきましたねぇ
”機械蟲(バグ)”も飛び回っているようです
住処ごと破壊したのは些かやり過ぎましたか
こうも視界が悪いと、
外を見続けるのは退屈でしょう
…如何(いかが)です?
昔話に花を咲かせるというのは」
少女は外を見たまま、一言
メル:
「…アナタに話す事なんてない」
ヨウェル:
「…随分冷たいですねぇ?
久しぶりの対面だというのに…」
窓に映る男を一瞥して、一言
メル:
「…アナタなんて知らない」
ヨウェル:
「まぁ、良いでしょう…
”目的地”へ到着するには
まだ時間があります
過去の事は水に流して、
私の研究にご協力頂きたいのですが」
少女は向き直り、男を睨みつけて、一言
メル:
「…アナタは、信用できない」
ヨウェル:
「やれやれ、困りましたねぇ
そのように頑なですと…」
男はそう言いながら少女の傍まで近付くと
少女の顎に指を添え、自分へと向かせる
ヨウェル:
「”身体”に聞くことになってしまいますよ…?」
メル:
「…ッ」
ヨウェル:
「私も心苦しいのですよ…?
できれば穏便に済ませたいのです
とても”大事”な存在ですからねぇ…おっと」
突然の爆発音
列車が大きく揺れる
男は無線機で通信を始める
ヨウェル:
「…私です、何事ですか?
ほぉ…それはそれは、
わかりました、対処はお任せしますよ
いえ、私もそちらに向かいます
…実に、興味深いですからねぇ」
無線機を切り、向き直る男
ヨウェル:
「どうやら、”招かれざる客”が来たようです…
私はその者を排除しなくてはいけません」
メル:
「…此処(ここ)から出して」
ヨウェル:
「それはできません
こちらで暫(しば)らくお待ち下さい?
なぁに、すぐに終わりますよ
では、また後ほど…」
男はそう言い残して扉を閉め、
少女が出られないよう施錠した
【場面転換】装甲列車内
銃弾が飛び交う通路
物陰から応戦する青年
身に着けている通信機から声が響く
シュナイザー:
「ねぇ”ゼファ”!
ホントに突撃しちゃったの?!」
ゼファ:
「うっせぇな!黙ってられっかよ!
違法採掘だけじゃねぇ、
民間人の拉致だぞ!?」
メル:
N『牙のようなマスク越しに声を荒げるのは
ゼファと呼ばれた青年
大型の黒い拳銃を軽々と扱いながら
向かってくる武装集団を次々と撃退していく』
シュナイザー:
「まーったく君ってやつは…
仕方ない、サポートは任せてよ
女の子は前から三両目に乗ってるはずだよ?」
ゼファ:
「マジか!助かるぜ”シュナイザー”!!」
メル:
N『列車の外、シュナイザーと呼ばれた青年は
酸素ボンベを咥えたようなマスクで
ゴーグルに搭載した望遠レンズを覗き込み、
呆れた声で通信機に向かって話しかける』
シュナイザー:
「…確認もせず突っ込むんだもんなぁ
でもチャンスだったかも
バグが列車を襲ってた…
きっと強引なやり方で採掘したんだろう
住処を荒らされて凄く怒ってる
装甲に”クロム帝國”の紋章があったから
軍部関係だろうけど…採掘のイロハが無い
正式な手続きを踏んでないのは確かだね…」
ゼファ:
「俺達の”島”で好き勝手しやがって…
ぜってぇ許さねぇ!採掘の…
ナントカってやつよ!」
シュナイザー:
「採掘法、第八条第二項
探求者でない者が権利者の許可なく、
採掘または資源の強奪を行った場合は
コレを制圧しても良い」
ゼファ:
「そう、それそれ!」
シュナイザー:
「ちょっとは覚えなよ…」
ゼファ:
「お前が覚えてんだから良いだろ別に」
シュナイザー:
「良い訳あるか!」
ゼファ:
「頼りにしてるぜ相棒!」
シュナイザー:
「も~調子良いんだからぁ…」
ゼファ:
「…ん?」
シュナイザー:
「どしたの?」
ゼファ:
「おかしい…急に静かになりやがった
胸騒ぎがする」
シュナイザー:
「銃声が止んだ…?気を付けて、ゼファ」
気が付けば銃弾の雨が止んでいた
硝煙の向こう側から
一人の男がゆっくりと歩み出る
ヨウェル:
「これはこれは…
ようこそ、元気な御客人さん」
ゼファ:
「…テメェ、ただモンじゃねぇな?」
ヨウェル:
「私はこの部隊を率いている
”ヨウェル”と申します
…貴方は?」
ゼファ:
「名乗るワケねぇだろ、この犯罪者が!」
ヨウェル:
「…それは残念です
話し合いを通じて親睦(しんぼく)を深め、
より良い関係を築けると思ったのですが…」
ゼファ:
「話し合いだぁ?」
ヨウェル:
「我々は現在、重要な任務中です
…そちらのご用件は何でしょう?」
ゼファ:
「拉致した女の子だ!居るんだろう!?」
ヨウェル:
「はて…女の子…?
申し訳ありませんが、存じ上げませんねぇ」
ゼファ:
「惚(とぼ)けてんじゃねぇ!
こっちはちゃんと見てたんだ…
探求者の”目”、誤魔化せると思ってんのか!」
ヨウェル:
「…”アレ”の事を言っているのなら、
見当違いですよ」
ゼファ:
「んだと…?」
ヨウェル:
「アレに、
人としての”価値”はありませんので」
ゼファ:
「テメェ…!」
メル:
N『ヨウェルに銃口を向けるゼファ
銃身が展開し廃熱機構が剥き出しとなる
取り付けられた装置からエネルギーが注がれ、
その熱量により、内部が赤熱していく…』
ヨウェル:
「…穏やかじゃないですねぇ?」
シュナイザー:
「ちょっとまさかそこで使うつもりじゃ―――」
ゼファ:
「”炸裂弾(バースト・ブリット)”!!」
メル:
N『凄まじい音と共に
蒸気を噴出させながら放たれた弾丸が、
一直線にヨウェルへと向かう…
しかし躱(かわ)され、
そのまま壁に当たった弾丸は爆発
爆風で装甲を破壊し、大穴を空ける』
ヨウェル:
「…やれやれ、危ない危ない
もう少しで直撃してしまう所でしたよ
ですが…驚きました
内側からとはいえ、
帝國が誇る高密度装甲を破壊するとは…
うまく避けられて、本当に良かったです
実に…惜しかったですねぇ?」
ゼファ:
「狙いは、”そっち”じゃねぇ」
ヨウェル:
「ほぉ…これは―――」
メル:
N『抉(えぐ)られた装甲の外側から
大量の影が押し寄せる
機械で出来た虫…バグである』
ヨウェル:
「なるほど…コチラが狙いでしたか
虫は、嫌いなんですがねぇ…
助けて頂けますか?」
あっという間に全身をバグに覆われるヨウェル
だがその声は不気味な程落ち着いていた
ゼファ:
「冗ぉ~談!クソ野郎にはお似合いだぜ」
シュナイザー:
「今のうちだよ!ゼファ!」
ゼファ:
「わかってるって!」
虫に集(たか)られるヨウェルを残し
空けた穴から外に飛び出すと
列車の屋根上へ移動した
ヨウェル:
「…困りましたねぇ
あまり”コレ”を使いたくは無いんですが」
そう言うとヨウェルは
ゆっくりと右腕を上げる―――
【場面転換】装甲列車 屋根の上
再び前方車両を目指すゼファ
通信機からシュナイザーの声が響く
シュナイザー:
「バグは鉱石や熱源に反応する…
うまくいったね!やるじゃん!」
ゼファ:
「へへっ…まぁな?」
シュナイザー:
「でもよくわかったね?
アイツが”熱源体”だって…」
ゼファ:
「ヤツの着てた軍服は他のとは違ってた
あれはきっと”耐熱防護服”だ
あんな胡散(うさん)くせぇヤツは
何かしらの武器を隠し持ってる…
だから吹っ飛ばしたのさ
けどま、あそこまで食いつくなんて
正直思っちゃいなかったが―――っと
…此処だな?」
屋根にアンカーを打ち込み、
窓に飛びついて室内を見る
少女が暗い顔で俯いていた
コンコンと窓をノックする
メル:
「…ん」
顔を上げて音の方向、窓を見る
にっこり顔のゼファと目が合う
メル:
「人…?」
ゼファが何やらジェスチャーをしている
声はまったく聴こえない
メル:
「…なんだろう…”離れろ”…かな」
扉まで離れた所で青年は頷き
その手元が次第に輝いていくと
壁を蹴りつけて後退し、次の瞬間
窓とその周囲を木っ端微塵に破壊した
ゼファ:
「ふぅ…助けに来たぜ、お姫様?」
メル:
「…アナタは…?」
ゼファ:
「俺はゼファ、探求者だ!
偶然アンタが連れ去られる所を見ちまってな
助けに来たってワケさ?」
メル:
「…助けに…?」
シュナイザー:
「僕の事も紹介してよね
あ、僕はシュナイザーだよ?」
メル:
「たんきゅうしゃ…」
ゼファ:
「ん?どした?」
少し考える少女
やがて口を開く
メル:
「…アナタがゼファで、
小さいのが…シュナイザー?」
ゼファと通信機を交互に見る少女
シュナイザー:
「…僕は通信機じゃないぞ」
ゼファ:
「なっはっはっは、良いじゃねぇか
チビなのは合ってんだし?」
シュナイザー:
「良い訳あるかぁ!」
ゼファ:
「悪かった悪かった!
コイツも探求者さ?
俺の親友で、仲間だ
今は少し離れた場所で待機してる」
シュナイザー:
「そ…そこは相棒って言えよ…!」
ゼファ:
「そうとも言う」
シュナイザー:
「も~…恥ずかしいなぁ」
ゼファ:
「照れんなって」
メル:
「ふふ…おもしろい」
二人の問答に
少し心を開いた様子の少女
ゼファ:
「そだ、アンタの名前は?」
メル:
「私…?
…私、は…えっと…」
戸惑い、再び俯く少女
シュナイザー:
「どうしたの?まさか、記憶が…?」
ゼファ:
「なっ、忘れちまったのか?
そりゃ…大変だな…」
シュナイザー:
「相当怖かったんだろうね…
女の子だもん、無理もないよ」
ゼファ:
「何か、覚えてる事は無いか?
なんでも良いぞ?」
シュナイザー:
「こういう時はそっとしとく物だよ?
ツライ事が起きてショックだろうし―――」
メル:
「メ…ル…」
シュナイザー:
「え?」
ゼファ:
「名前か!?」
メル:
「うん…そう言われてた気がするの…」
ゼファ:
「”メル”か…良い名前だな!」
シュナイザー:
「うんうん、可愛い名前だね」
メル:
「アナタ達も、私を…連れて行くの…?」
シュナイザー:
「えっと…それは勿論―――」
ゼファ:
「ついて来い…なんて言わねぇよ」
メル:
「…?」
シュナイザー:
「ゼファ…?」
ゼファは破壊した窓際に進み
振り返って、右手を差し出す
ゼファ:
「”一緒に”、行こうぜ?」
メル:
「…うん」
ゼファ:
「そうこなくっちゃな」
シュナイザー:
「まったくも~…
かなわないなぁ」
ゼファの手を取り、微笑むメル
ヨウェル:
「そこまでです…」
扉が開き、
ヨウェルと護衛達が入って来る
ゼファ:
「チッもう来やがったか…」
ヨウェル:
「”ソレ”は、我々にとって必要なのです
さぁ、此方(こちら)へ…」
メル:
「…嫌…」
ゼファの後ろに隠れるメル
ゼファ:
「嫌だとさ?
メル、予備の”ガスマスク”だ
付けたら…俺に掴まれ」
メル:
「…うん!」
ゼファ:
「シュナイザー!”合図”を頼む!」
手渡されたマスクを装着する
キャニスターが二つ付いた
口元を覆うシャープなデザイン
ヨウェル:
「…聞き分けがありませんねぇ?」
シュナイザー:
「いつでも良いよ!ゼファ!」
追ってくる護衛達を退け、
足場を蹴り、外へ飛び出す二人
銃口を室内に向けるゼファ
黒い銃が三度放つ…渾身の一撃
ゼファ:
「バースト・ブリット!」
メル:
N『爆風と共に二つの影が闇夜に消え、
濃霧がその痕跡をそっと包み隠した…
しばらくすると、何事も無かったように
煙の中からヨウェルが現れ
二人が去った場所で一言、呟く』
ヨウェル:
「…やれやれ、
お転婆な”お姫様”ですねぇ…」
残された静寂の夜に、
列車の走る音だけが響いていた―――
【プロローグ】
メル:
N『人類の文明は進化を続け、
その技術力を飛躍的に成長させた
だが同時に、環境汚染や資源の枯渇など、
自然への影響は深刻化し、
貧富の差による略奪や犯罪も比例して
増加の一途を辿っていった
そんな中で起きた大陸間による”世界戦争”
争いの果てに生まれる新たな恐怖と、
強大な”兵器達”…
東では海を引き千切るモノ
西では地を踏み砕くモノ
南では空を切り裂くモノ
北では光を飲み込むモノ
”四大兵器”と呼ばれるそれらは、
世界を破滅へと導いて行く
”発展”と”闘争”、
人類は変わらず悲劇を繰り返していた…
数十年の後、
世界を一変させる出来事が起こる
”常識の崩壊”(オーバー・カタストロフ)
神の怒りか、あるいは星の嘆きか
世界中の火山が噴火し、地表は割れ、
荒れた波が人類の築き上げた文明を押し流した
世界を破滅に導いた四大兵器さえその波に消え
降り注ぐ火山灰と吹き出す瘴気により、
世界は瞬く間に先の見えない深い霧に包まれた
太陽光はほぼ遮られ、動植物の八割が死滅
地上で生活する事は生物にとって困難となった
しかし、生き残った人類は
ある日”奇跡”を手に入れる…
火山灰に紛れて現れた小さな贈り物
”原初の石”(エナジー・ストーン)
適正の熱を加えれば数十倍から数百倍という
凄まじいエネルギーの蒸気熱を生み出すソレは
人類の希望の光となるのだった
コレを用いる事で訪れた新時代こそ
”高次元蒸気開拓時代”である』
―――それから数百年の時が流れ、現代…