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Clock Gears_edited_edited.jpg

​スチーム・アンド・スチール

四大陸間が引き起こした世界戦争と、

その後の大災害によって
文明が再び”火の時代”となった未来…

荒野と化し、動植物がほぼ死に絶え
先の見えない濃霧に包まれた大地で
光を目指し、抗い続ける者達が居た

危険を顧みず、如何なる困難をも乗り越え、

各地に散らばる資源を探し、追い求める者達…
いつしか人々は彼らを”探求者”と呼んだ

そして遂に、彼らの齎した”ある恩恵”の力で
人類は蒸気熱を用いる機械文明を築き上げる

蒸気と鋼により訪れた、この新たな時代こそ…
”高次元蒸気開拓時代”である―――

ギアス ~始まりの鼓動~ 前編

【登場人物】

ゼファ 男性
蒸気駆動型可変式拳銃で窮地を脱する本作の主人公
貧民街出身の青年 ぶっきらぼうで負けず嫌いな性格
武器の扱いに秀でており、腕っぷしも強い
黒い髪に金色の瞳 パイロットゴーグルを愛用する

シュナイザー 男性(女性が演じてもOK)
主人公の相棒で機械オタク
身長が低く、華奢でひ弱な印象だが
頭脳明晰で他人を思いやれる優しい性格
栗色の癖っ毛に深い緑色の瞳とモノクル

メル 女性

拉致されている少女 とても可愛い

本作のヒロインにして物語の”核”となる存在
色白の肌にプラチナブロンドの髪、薄い青色の瞳

​ナレーション兼任

ヨウェル 男性
北の大陸”オグマ”を統べる男

軍事国家クロム帝國の最高司令官
力と権力そしてカリスマ性があり、

口調も丁寧で紳士的だが性格は外道
プラチナシルバーの髪と紫の瞳

【サブキャラクター】

ルーツ
”蒸気駆動式機械人形”(スチームドール)
その巨体と鋼鉄の拳から炸薬式で放たれる一撃が驚異
人工知能搭載型で、言語機能こそないが、

頭部の信号ライトによるコミュニケーションが可能

シュナイザー作 "あるモノ"に変形できる

アインスタイン
オーバー・カタストロフ後、最初に活躍した発明家
絶滅した犬や猫といった動物型スチームドールを開発し

人々に喜びと希望を与えた偉大な人物
人型の作成も行っていたがあくまで見た目は玩具であり
”人間”に似せて創る事には反対姿勢をとっていた 故人


​―――カーネイジ砂岩地帯 1時00分AM
メル:
N『夜の帳(とばり)が降りる荒れた大地…
その暗がりを掻き分け、
濃霧を突き進む一つの光があった

煙を巻き上げながら進む”ソレ”は
軍旗が刻まれた特別な蒸気機関車
所謂(いわゆる)、”装甲列車”である

その車両の一室
座って外を見ているローブ姿の少女と、
後ろで手を組んで立つペストマスクの男
顔を合わせてはいない…』

ヨウェル:
「…霧が濃くなってきましたねぇ
”機械蟲(バグ)”も飛び回っているようです
住処ごと破壊したのは些かやり過ぎましたか
こうも視界が悪いと、
外を見続けるのは退屈でしょう
…如何(いかが)です?
昔話に花を咲かせるというのは」

少女は外を見たまま、一言

メル:
「…アナタに話す事なんてない」

ヨウェル:
「…随分冷たいですねぇ?
久しぶりの対面だというのに…」

窓に映る男を一瞥して、一言

メル:
「…アナタなんて知らない」

ヨウェル:
「まぁ、良いでしょう…
”目的地”へ到着するには
まだ時間があります
過去の事は水に流して、
私の研究にご協力頂きたいのですが」

少女は向き直り、男を睨みつけて、一言

メル:
「…アナタは、信用できない」

ヨウェル:
「やれやれ、困りましたねぇ
そのように頑なですと…」

男はそう言いながら少女の傍まで近付くと
少女の顎に指を添え、自分へと向かせる

ヨウェル:
「”身体”に聞くことになってしまいますよ…?」

メル:
「…ッ」

ヨウェル:
「私も心苦しいのですよ…?
できれば穏便に済ませたいのです
とても”大事”な存在ですからねぇ…おっと」

突然の爆発音
列車が大きく揺れる
男は無線機で通信を始める

ヨウェル:
「…私です、何事ですか?
ほぉ…それはそれは、
わかりました、対処はお任せしますよ
いえ、私もそちらに向かいます
…実に、興味深いですからねぇ」

無線機を切り、向き直る男

ヨウェル:
「どうやら、”招かれざる客”が来たようです…
私はその者を排除しなくてはいけません」

メル:
「…此処(ここ)から出して」

ヨウェル:
「それはできません
こちらで暫(しば)らくお待ち下さい?
なぁに、すぐに終わりますよ
では、また後ほど…」

男はそう言い残して扉を閉め、
少女が出られないよう施錠した

 


【場面転換】装甲列車内
銃弾が飛び交う通路
物陰から応戦する青年
身に着けている通信機から声が響く

シュナイザー:
「ねぇ”ゼファ”!
ホントに突撃しちゃったの?!」

ゼファ:
「うっせぇな!黙ってられっかよ!
違法採掘だけじゃねぇ、
民間人の拉致だぞ!?」
 
メル:
N『牙のようなマスク越しに声を荒げるのは
ゼファと呼ばれた青年
大型の黒い拳銃を軽々と扱いながら
向かってくる武装集団を次々と撃退していく』

シュナイザー:
「まーったく君ってやつは…
仕方ない、サポートは任せてよ
女の子は前から三両目に乗ってるはずだよ?」

ゼファ:
「マジか!助かるぜ”シュナイザー”!!」

メル:
N『列車の外、シュナイザーと呼ばれた青年は
酸素ボンベを咥えたようなマスクで
ゴーグルに搭載した望遠レンズを覗き込み、
呆れた声で通信機に向かって話しかける』

シュナイザー:
「…確認もせず突っ込むんだもんなぁ
でもチャンスだったかも
バグが列車を襲ってた…
きっと強引なやり方で採掘したんだろう
住処を荒らされて凄く怒ってる
装甲に”クロム帝國”の紋章があったから
軍部関係だろうけど…採掘のイロハが無い
正式な手続きを踏んでないのは確かだね…」

ゼファ:
「俺達の”島”で好き勝手しやがって…
ぜってぇ許さねぇ!採掘の…
ナントカってやつよ!」

シュナイザー:
「採掘法、第八条第二項
探求者でない者が権利者の許可なく、
採掘または資源の強奪を行った場合は
コレを制圧しても良い」

ゼファ:
「そう、それそれ!」

シュナイザー:
「ちょっとは覚えなよ…」

ゼファ:
「お前が覚えてんだから良いだろ別に」

シュナイザー:
「良い訳あるか!」

ゼファ:
「頼りにしてるぜ相棒!」

シュナイザー:
「も~調子良いんだからぁ…」

ゼファ:
「…ん?」

シュナイザー:
「どしたの?」

ゼファ:
「おかしい…急に静かになりやがった
胸騒ぎがする」

シュナイザー:
「銃声が止んだ…?気を付けて、ゼファ」

気が付けば銃弾の雨が止んでいた
硝煙の向こう側から
一人の男がゆっくりと歩み出る

ヨウェル:
「これはこれは…
ようこそ、元気な御客人さん」

ゼファ:
「…テメェ、ただモンじゃねぇな?」

ヨウェル:
「私はこの部隊を率いている
”ヨウェル”と申します
…貴方は?」

ゼファ:
「名乗るワケねぇだろ、この犯罪者が!」

ヨウェル:
「…それは残念です
話し合いを通じて親睦(しんぼく)を深め、
より良い関係を築けると思ったのですが…」

ゼファ:
「話し合いだぁ?」

ヨウェル:
「我々は現在、重要な任務中です
…そちらのご用件は何でしょう?」

ゼファ:
「拉致した女の子だ!居るんだろう!?」

ヨウェル:
「はて…女の子…?
申し訳ありませんが、存じ上げませんねぇ」

ゼファ:
「惚(とぼ)けてんじゃねぇ!
こっちはちゃんと見てたんだ…
探求者の”目”、誤魔化せると思ってんのか!」

ヨウェル:
「…”アレ”の事を言っているのなら、
見当違いですよ」

ゼファ:
「んだと…?」

ヨウェル:
「アレに、
人としての”価値”はありませんので」

ゼファ:
「テメェ…!」

メル:

N『ヨウェルに銃口を向けるゼファ
銃身が展開し廃熱機構が剥き出しとなる
取り付けられた装置からエネルギーが注がれ、
その熱量により、内部が赤熱していく…』

ヨウェル:
「…穏やかじゃないですねぇ?」

シュナイザー:
「ちょっとまさかそこで使うつもりじゃ―――」

ゼファ:
「”炸裂弾(バースト・ブリット)”!!」

メル:
N『凄まじい音と共に
蒸気を噴出させながら放たれた弾丸が、
一直線にヨウェルへと向かう…
しかし躱(かわ)され、
そのまま壁に当たった弾丸は爆発
爆風で装甲を破壊し、大穴を空ける』

ヨウェル:
「…やれやれ、危ない危ない
もう少しで直撃してしまう所でしたよ
ですが…驚きました
内側からとはいえ、
帝國が誇る高密度装甲を破壊するとは…
うまく避けられて、本当に良かったです
実に…惜しかったですねぇ?」

ゼファ:
「狙いは、”そっち”じゃねぇ」

ヨウェル:
「ほぉ…これは―――」

メル:
N『抉(えぐ)られた装甲の外側から
大量の影が押し寄せる
機械で出来た虫…バグである』

ヨウェル:
「なるほど…コチラが狙いでしたか
虫は、嫌いなんですがねぇ…
助けて頂けますか?」

あっという間に全身をバグに覆われるヨウェル
だがその声は不気味な程落ち着いていた

ゼファ:
「冗ぉ~談!クソ野郎にはお似合いだぜ」

シュナイザー:
「今のうちだよ!ゼファ!」

ゼファ:
「わかってるって!」

虫に集(たか)られるヨウェルを残し
空けた穴から外に飛び出すと
列車の屋根上へ移動した

ヨウェル:
「…困りましたねぇ
あまり”コレ”を使いたくは無いんですが」

そう言うとヨウェルは
ゆっくりと右腕を上げる―――


【場面転換】装甲列車 屋根の上
再び前方車両を目指すゼファ
​通信機からシュナイザーの声が響く

シュナイザー:
「バグは鉱石や熱源に反応する…
うまくいったね!やるじゃん!」

ゼファ:
「へへっ…まぁな?」

シュナイザー:
「でもよくわかったね?
アイツが”熱源体”だって…」

ゼファ:
「ヤツの着てた軍服は他のとは違ってた
あれはきっと”耐熱防護服”だ
あんな胡散(うさん)くせぇヤツは
何かしらの武器を隠し持ってる…
だから吹っ飛ばしたのさ
けどま、あそこまで食いつくなんて
正直思っちゃいなかったが―――っと
…此処だな?」

屋根にアンカーを打ち込み、
窓に飛びついて室内を見る
少女が暗い顔で俯いていた
コンコンと窓をノックする

メル:
「…ん」

顔を上げて音の方向、窓を見る
にっこり顔のゼファと目が合う

メル:
「人…?」

ゼファが何やらジェスチャーをしている
声はまったく聴こえない

メル:
「…なんだろう…”離れろ”…かな」

扉まで離れた所で青年は頷き
その手元が次第に輝いていくと
壁を蹴りつけて後退し、次の瞬間
窓とその周囲を木っ端微塵に破壊した

​ゼファ:
「ふぅ…助けに来たぜ、お姫様?」

メル:
「…アナタは…?」

ゼファ:
「俺はゼファ、探求者だ!
偶然アンタが連れ去られる所を見ちまってな
助けに来たってワケさ?」

メル:
「…助けに…?」

シュナイザー:
「僕の事も紹介してよね
あ、僕はシュナイザーだよ?」

メル:
「たんきゅうしゃ…」

ゼファ:
「ん?どした?」

少し考える少女
やがて口を開く

メル:
「…アナタがゼファで、
小さいのが…シュナイザー?」

ゼファと通信機を交互に見る少女

シュナイザー:
「…僕は通信機じゃないぞ」

ゼファ:
「なっはっはっは、良いじゃねぇか
チビなのは合ってんだし?」

シュナイザー:
「良い訳あるかぁ!」

ゼファ:
「悪かった悪かった!
コイツも探求者さ?
俺の親友で、仲間だ
今は少し離れた場所で待機してる」

シュナイザー:
「そ…そこは相棒って言えよ…!」

ゼファ:
「そうとも言う」

シュナイザー:
「も~…恥ずかしいなぁ」

ゼファ:
「照れんなって」

メル:
「ふふ…おもしろい」

二人の問答に
少し心を開いた様子の少女

ゼファ:
「そだ、アンタの名前は?」

メル:
「私…?
…私、は…えっと…」

戸惑い、再び俯く少女

シュナイザー:
「どうしたの?まさか、記憶が…?」

ゼファ:
「なっ、忘れちまったのか?
そりゃ…大変だな…」

シュナイザー:
「相当怖かったんだろうね…
女の子だもん、無理もないよ」

ゼファ:
「何か、覚えてる事は無いか?
なんでも良いぞ?」

シュナイザー:
「こういう時はそっとしとく物だよ?
ツライ事が起きてショックだろうし―――」

メル:
「メ…ル…」

シュナイザー:
「え?」

ゼファ:
「名前か!?」

メル:
「うん…そう言われてた気がするの…」

ゼファ:
「”メル”か…良い名前だな!」

シュナイザー:
「うんうん、可愛い名前だね」

メル:
「アナタ達も、私を…連れて行くの…?」

シュナイザー:
「えっと…それは勿論―――」

ゼファ:
「ついて来い…なんて言わねぇよ」

メル:
「…?」

シュナイザー:
「ゼファ…?」

ゼファは破壊した窓際に進み
振り返って、右手を差し出す

ゼファ:
「”一緒に”、行こうぜ?」

メル:
「…うん」

ゼファ:
「そうこなくっちゃな」

シュナイザー:
「まったくも~…
かなわないなぁ」

ゼファの​手を取り、微笑むメル

ヨウェル:
「そこまでです…」

扉が開き、
ヨウェルと護衛達が入って来る

ゼファ:
「チッもう来やがったか…」

ヨウェル:
「”ソレ”は、我々にとって必要なのです
さぁ、此方(こちら)へ…」

メル:
「…嫌…」

ゼファの後ろに隠れるメル

ゼファ:
「嫌だとさ?
メル、予備の”ガスマスク”だ
付けたら…俺に掴まれ」

メル:
「…うん!」

ゼファ:
「シュナイザー!”合図”を頼む!」

手渡されたマスクを装着する
キャニスターが二つ付いた
口元を覆うシャープなデザイン

ヨウェル:
「…聞き分けがありませんねぇ?」

シュナイザー:
「いつでも良いよ!ゼファ!」

追ってくる護衛達を退け、
足場を蹴り、外へ飛び出す二人
銃口を室内に向けるゼファ
黒い銃が三度放つ…渾身の一撃

ゼファ:
「バースト・ブリット!」

メル:
N『爆風と共に二つの影が闇夜に消え、
濃霧がその痕跡をそっと包み隠した…
しばらくすると、何事も無かったように
煙の中からヨウェルが現れ
二人が去った場所で一言、呟く』

ヨウェル:
「…やれやれ、
お転婆な”お姫様”ですねぇ…」

残された静寂の夜に、
列車の走る音だけが響いていた―――

 

 

【プロローグ】

メル:

N『人類の文明は進化を続け、
その技術力を飛躍的に成長させた
だが同時に、環境汚染や資源の枯渇など、
自然への影響は深刻化し、
貧富の差による略奪や犯罪も比例して

増加の一途を辿っていった

そんな中で起きた大陸間による”世界戦争”
争いの果てに生まれる新たな恐怖と、

強大な”兵器達”…
東では海を引き千切るモノ
西では地を踏み砕くモノ
南では空を切り裂くモノ
北では光を飲み込むモノ
”四大兵器”と呼ばれるそれらは、
世界を破滅へと導いて行く
”発展”と”闘争”、

人類は変わらず悲劇を繰り返していた…


数十年の後、
世界を一変させる出来事が起こる

”常識の崩壊”(オーバー・カタストロフ)

神の怒りか、あるいは星の嘆きか
世界中の火山が噴火し、地表は割れ、
荒れた波が人類の築き上げた文明を押し流した
世界を破滅に導いた四大兵器さえ
その波に消え
降り注ぐ火山灰と吹き出す瘴気により、
世界は瞬く間に先の見えない深い霧に包まれた
太陽光はほぼ遮られ、動植物の八割が死滅
地上で生活する事は生物にとって困難となった

しかし、生き残った人類は

ある日”奇跡”を手に入れる…
火山灰に紛れて現れた小さな贈り物

”原初の石”(エナジー・ストーン)

適正の熱を加えれば数十倍から数百倍という
凄まじいエネルギーの蒸気熱を生み出すソレは
人類の希望の光となるのだった

コレを用いる事で訪れた新時代こそ
”高次元蒸気開拓時代”である』


―――それから数百年の時が流れ、現代…


【場面転換】アジト 8時30分AM
メル:
N『ガスマントルの光が優しく照らす一室
壁伝に張り巡らされた鉄パイプから
片隅の装置に熱が送り込まれ
発生した蒸気により
フライパンの上の”ジャガーポテト”が
香ばしく蒸し焼きされている
それ以外の具材は、何も無い』

ゼファ:
「えーーー!肉は!?」

シュナイザー:
「ある訳ないだろ?そんな高価な物…」

ゼファ:
「食ーいーてーぇーよー
なあーーーシュナイザーさんよぉ!?」

シュナイザー:
「無いものは無いよ…」

ゼファ:
「ぁああ岩トカゲの尻尾ぉおお!
卵でも良いからぁああ…」

シュナイザー:
「卵の方が貴重だよ…まったくも~
仕方ないだろ?
資金調達の為に採掘しに行ったのに、
誰かさんが
”採掘なんてしてたら間に合わねぇ!”
とか言って、
助けに飛び出しちゃったんだから」

ゼファ:
「…身体が勝手に動いちまったんだよ
良いだろ別に…あー…腹減ったぁ…」

シュナイザー:
「君はそういう奴だからね
…ま、それが良いんだけど(ボソリ)」

ゼファ:
「んぁ?なんっか言ったかあ~…?」

シュナイザー:
「気のせいじゃない?幻聴だよ」

ゼファ:
「俺も遂に年貢の納め時かぁ…」

シュナイザー:
「何処で覚えるのさ…そんな言葉」

メル:
「あ…あの」

助け出した少女…メルが、
部屋の奥の扉から顔を覗かせ
おずおずと二人に話しかけた

ゼファ:
「おっ!おはようメル!
よく眠れたか?」

シュナイザー:
「おはよう、メルちゃん」

メル:
「お…おはよ…ひゃっ」

ゼファ:
「あ!おいこら”ルーツ”!」

メル:
N『突然、扉の横から大きな手が伸びて
メルを確保、掌に乗せてゆっくり立ち上がる
ソレは全長三メートル程ある…ロボット』

シュナイザー:
「ルーツ、だめだぞ!
メルちゃんはお客様なんだから
もっと優しくしなくちゃ…」

メル:
「え…と…この子は…?」

ゼファ:
「ソイツはルーツって言って―――」

シュナイザー:
「蒸気駆動式機械人形”スチームドール”
名前はルーツ…僕が造ったんだ」

ゼファ:
「疲れて眠っちまったメルを運んだのも、
そのルーツなんだぜ?」

メル:
「そうなんだ…」

シュナイザー:
「ルーツ、メルちゃんを降ろして?」

指示を受け、抱きかかえたメルを
​ゆっくりと床に降ろすルーツ

メル:
「…ありがとう…ルーツ」

シュナイザー:
「よしよし、良い子だねルーツ」

命令通りにメルを離し、
しゃがみ込むのを確認してから
満足そうにルーツの頭を撫でるシュナイザー

ゼファ:
「シュナイザーは親バカだなぁ?」

シュナイザー:
「そーゆー君こそ、
ルーツが初めて自立歩行に成功した時は
涙流してたくせに」

ゼファ:
「あ、あれは…違げぇよ」

メル:
「…造れる人、沢山居るの…?」

ゼファ:
「ん-どうだろうなぁ?
シュナイザーは”特別”だからな」

メル:
「…すごいね、シュナイザー…」

シュナイザー:
「まぁね~?」

カーテンの掛かった広い窓に近づくゼファ

ゼファ:
「俺達の街には職人が多くてな?
才能がある奴は技術者として、
力がある奴は採掘者として
それぞれの環境で育つんだ…
んで、自作した物や掘り当てた物なんかを
売ったり買ったりして暮らしてるのさ?
もっとも、俺達は探求者になったから
もうすぐこの街を出ちまうけどな…」

閉ざされたカーテンを開けるゼファ
そこから見える景色に息を呑むメル

メル:
「わぁ…」

ゼファ:
「ようこそ、メル
鋼の峡谷(きょうこく)…”ベレヌス”へ」

メル:
N『眼下にあるのは夢のような世界
歯車が絶え間なく動き、複数の鉄パイプが
蒸気をありとあらゆる場所へと届けている
広場に聳(そび)え立つ時計塔を中心として
行き交う人々が街を彩り、活気付く
霧の掛かる断崖絶壁に広がった
鈍く輝く鋼の街並み…』

ゼファ:
「…どうだ、俺達の故郷は?」

メル:
「綺麗…」

始めて見る光景に、
メルは胸をときめかせる

シュナイザー:
「反応を見るに、
街の子じゃないみたいだね…」

ゼファ:
「なんとなく、そうだとは思ってたさ?
こんな可愛い…」

シュナイザー:
「ん?」

ゼファ:
「いや、なんでもない…にしても、
どっから来たのかも忘れちまってたか…
あ、そうだシュナイザー、地図あったろ!
アレ見せたら何か思い出すかも?」

シュナイザー:
「それもそうだね、
メルちゃん、こっちに来てくれる?」

メル:
「…?」

シュナイザー:
「四大陸には資源や技術力で
一番発展した代表的な場所があるんだ
この地図で言うと―――」

向かった先、
シュナイザーが指を差したのは
壁に飾られた大きなボロボロの世界地図

メル:
「これが…世界…」

シュナイザー:
「此処、鋼の峡谷ベレヌスがある
東の”ディアン大陸”
城塞都市ケルヌーンがある
西の”ゴブニウ大陸”
天空要塞マクリヴがある
南の”リィル大陸”
そして、軍事国家クロム帝國がある
北の”オグマ大陸”…」

メル:
「…広い」

ゼファ:
「別に無理に覚えなくったっていいぜ?
ややっこしいしな…
俺なんか覚えるのに一週間はかかった」

シュナイザー:
「…僕は一日で覚えたよ」

ゼファ:
「このガリ勉」

シュナイザー:
「脳筋」

ゼファ:
「んだとくすぐるぞっ」

シュナイザー:
「やめろぉ!」

メル:
「ふふ…」

ゼファ:
「で、どうだ?なんか思い出せそうか?」

メル:
「ううん…ごめんなさい…」

ゼファ:
「そ、そっか…そうだよな?」

シュナイザー:
「謝らないで?焦らず、一歩ずつだよ?」

ゼファ:
「そうそう!地道に行こうぜ?
細かい事は気にすんなって!
笑ってりゃあ何とか成る!」

シュナイザー:
「…君はもっと気にした方が良いと思うよ」

ゼファ:
「ぁ?なんか言ったか?」

シュナイザー:
「気のせいじゃない?幻聴だよ、幻聴」

ゼファ:
「そうかぁ?アレ、なんか…
さっきもこんな会話したような―――ウッ」

急に片膝を着いてしゃがみ込むゼファ

シュナイザー:
「どしたのゼファ?」

メル:
「…大丈夫?」

ゼファ:
「腹…減…った…」

シュナイザー:
「も~…大げさなんだよ君は」

メル:
「…ふふふ」

シュナイザー:
「メルちゃんも、食べるよね?」

メル:
「…うん!」

ゼファ:
「肉が無くても良い…
だから…ありったけを…!」

シュナイザー:
「わかったから席に座りなよ…」

メル:
N『普段は二人の空間で、
はじめて三人…机を囲む
いつもに増して賑やかな、
ちょっぴり遅めのモーニング―――』

 


【場面転換】衣服専門店前 11時45分AM
洋服専門店”パンドーラー”
店の中で服を選ぶメルと
店の外で待機しているゼファ

ゼファ:
「なにがどーなってこーなったんだ…」

メル:
N『ゼファとメルは今、服屋に居る
発端はゼファの”ある一言”が原因
それは遡(さかのぼ)る事、三時間前―――』

シュナイザー:
「そうだメルちゃん、街を歩いてみない?」

メル:
「…街を?」

ゼファ:
「(ポテトを頬張り)そいつぁ良い!
肉買おう、肉!」

シュナイザー:
「…行儀悪いよ、ゼファ」

ゼファ:
「(ポテトを食べながら)んな事言ったって
やめられねぇし止まらねぇよ!」

シュナイザー:
「飲み込んでから喋れよ…」

ゼファ:
「はぁい(水で流し込む)っぷは~!」

メル:
「ふふふ」

シュナイザー:
「もしかしたら街の物に触れて
何か思い出すかもしれないし、
僕たちも調達する物があるからね
気分転換にもなるよ、どうかな?」

メル:
「うん…行ってみたい」

ゼファ:
「それよかメル?
街に出るなら着替えとかねぇとな?」

メル:
「…私?」

シュナイザー:
「そのローブだと目立っちゃうかもね
万が一、アイツ等に見つかっても危ないし…」

ゼファ:
「あぁ、確実にまずい」

メル:
「…そーなの?」

ゼファ:
「いろいろとな?」

メル:
「どうして色々…?」

シュナイザー:
「僕の服を貸してあげるから、着替え―――」

ゼファ:
「だって”その下”、なんも着てねぇんだろ?」

メル:
「―――ッ!」

シュナイザー:
「おい…ゼファ…」

ゼファ:
「あ?どした」

早足で歩き出すメル
扉を開けてから振り向き

メル:
「………えっち」

そう言って扉を閉めた

ゼファ:
「俺、なんか悪い事言ったか?」

シュナイザー:
「はぁ…も~君って奴は
デリカシーがないなぁ…」

ゼファ:
「んむ?」

メル:
N『―――というやり取りがあり、
​どうせならと服を新調する流れになったのだ
ちなみにシュナイザーは食料調達でいない
”馴染みの店”だからお金の心配はしなくて良い
との事だが…女性店員に相当気に入られたのか
試着もといファッションショーが続いている』

ゼファ:
「とは言え此処から離れる訳にもいかねぇし…
はぁ~…シュナイザー…帰ってこぉ~い…」

言い終わるタイミングで丁度良く
シュナイザーが駆けてくる

シュナイザー:
「おぉーい、ゼファ!」

ゼファ:
「遅っせーぞシュナイザー!何してたんだ!」

シュナイザー:
「ごめんごめん、あれ?メルちゃんは?」

ゼファ:
「まだ中に居るぜ?」

シュナイザー:
「そうなんだ?楽しんでるみたいだね~」

ゼファ:
「此処の店員、センスだけは良いからな…
お、出て来たみたい…だ…?」

シュナイザー:
「…ゼファ?どうしたの?」

ゼファ:
「シュナイザー…天使が居る」

メル:
N『それはまるで…おとぎ話の登場人物
丸襟ブラウスにコルセットスカートが広がり、
装飾の施(ほどこ)された柔らかなケープが
その小さな身体を優しく包む
フリルの付いたソックスやショートブーツは
可愛さと動きやすさを両立させ、
ブラウン系で統一された色合いと
ループタイに輝くエナジーストーンが
繊細な女の子らしさを見事に纏め上げていた』

シュナイザー:
「わぁ!とってもかわいいね、メルちゃん」

ゼファ:
「…ああ!良いと思うぜ?」

メル:
「あ…ありがと…
でも沢山迷って遅くなっちゃった…」

ゼファ:
「気にすんな!
シュナイザーも遅かったよな?」

シュナイザー:
「そうなんだよ、今日は市場が凄かったんだ!
取り合いでちょっとした戦争だったよ…」

ゼファ:
「なに!肉は買えたのか!?」

シュナイザー:
「一応ね?けど、西大陸で何かあったのかな…
”砂モグラ”の燻製肉がかなり高騰してて
これだけしか買えなかったよ」

鞄から紐で括られた紙袋を取り出す

ゼファ:
「やったぜ!さっすがシュナイザーだ!」

シュナイザー:
「…後で調理しなきゃね?
他の物資もあまり流通してないみたいだった
けど、雫豆(しずくまめ)は手に入れたから、
とりあえずコレ食べよう?」

小さな三つの袋、その一つを手渡す

ゼファ:
「オヤツにしちゃ質素だな…」

シュナイザー:
「文句言わない」

ゼファ:
「へいへい…ほら、メル」

メル:
「…?」

ゼファ:
「育ち盛りだろ?半分やるよ」

シュナイザー:
「僕の分もどうぞ?」

メルの袋が二人の雫豆でいっぱいになる

メル:
「…いいの?」

ゼファ:
「気にすんなって」

シュナイザー:
「そうそう、沢山食べてね?」

メル:
「…ありがとゼファ、シュナイザー…」

瑞々しい半透明の小さい豆
一口頬張って噛んでみる
小粒の中からジュワっと甘い蜜が溢れた
自然と、笑顔になる

ゼファ:
「良いって事よ」

シュナイザー:
「良かったねメルちゃん
そうだゼファ?気になることが…」

ゼファ:
「ん?」

少し小声になるシュナイザー

シュナイザー:
「さっき市場の人達が噂してたんだ
軍服の来訪者を数人見かけたって…
アイツ等、やっぱり追いかけて来たね
なるべく早く離れた方が良いよ
”コラプサー”のエネルギーも
まだ溜まって無いだろ?」

真剣な顔になるゼファ

ゼファ:
「あぁ…”コイツ”にも苦労をかけるな
まだまだ働いて貰わねぇと…」

メル:
N『”崩せし者”(コラプサー)
と呼ばれた黒い拳銃を撫でるゼファ
斜めに突き出した三つのエネルギータンク
その内、発光しているのは一つだけ
つまり必殺技を撃てる回数は…』

ゼファ:
「一発、か…
それでも通常の弾は撃てる、
なんとか成るさ?」


メルを見つめるゼファ

ゼファ:
「ただ、それより気になるのは…」

シュナイザー:
「メルちゃんの…首の”アレ”?」

ゼファ:
「あぁ、店員の趣味にしちゃ…だろ?」

シュナイザー:
「…発信機の可能性は高いね」

メルの首元には”機械”が取り付けられていた
まるで、ペットに付ける為の首輪のように

ゼファ:
「聞いてみるか…なぁメル?
その首のチョーカー…それもあの店で?」

メル:
「ううん…コレ、ずっと外れないの…
だから店員さんが凄く気を遣ってくれて…」

鉄のチョーカーを摩るメル

ゼファ:
「やっぱりヤツの仕業か…」

シュナイザー:
「アジトの工具なら破壊できるかもね」

ゼファ:
「ホントか?」

メル:
「外せるの…?」

シュナイザー:
「確証は無いけど、やってみよう?」

ゼファ:
「そうと決まれば行動あるのみだ
アジトに戻ろう!」

メル:
「うん…」

ゼファ:
「心配すんな!肉も待ってる!」

メル:
「…うん!」

シュナイザー:
「も~、一番待ってるのは君だろー?」

三人は笑いながらアジトへ戻るのだった


【場面転換】アジト前 12時30分PM
メル:
「ゼファ…大丈夫?」

シュナイザー:
「遅いぞ~ゼファ?手、貸そうか?」

ゼファ:
「なんの…これしきぃ…!」

買い足したであろう大量の荷物を
一人で背負うゼファ

メル:
「…がんばって?」

シュナイザー:
「”ジャンケンで負けた方が持つ”
とか言うからだよ…まったくも~」

ゼファ:
「だ…大丈夫だって…!
このっ…程度…あぁ?」

アジトの前、床に残る大量の足跡
そして微かに香る…血の匂い

シュナイザー:
「先に入ってるよー?」

ゼファ:
「ッ!待てシュナイザー!」

シュナイザー:
「え…ガフッ!?」

扉を開けたシュナイザーを引きずり込む
銃を持った軍服の男達

メル:
「嫌…!」

ゼファ:
「シュナイザー!!」

そして歩み出る、見知った人物

ヨウェル:
「やれやれ…待ち草臥(くたび)れましたよ
随分、遅かったですねぇ…?」

ゼファ:
「テメェは…!」

ヨウェル:
「また会えて光栄です…ゼファ君
大人しく”ソレ”を此方へ渡して下されば、
そこに居るシュナイザー君は
無事にお返ししますよ…?」

ゼファ:
「なっ…俺達の名前―――」

シュナイザー:
「そんな…どうして…!」

ヨウェル:
「あぁ、てっきり気付いていたのかと…」

メル:
「ッ!」

ヨウェル:
「その”装置”…
発信機と盗聴器を兼ね備えているのですよ
耐久性も一級品でしてねぇ?
首を刎(は)ねない限りは外れません…」

シュナイザー:
「嘘だ!そんな技術…存在するはずが無い!」

ヨウェル:
「”此処”ではできないでしょうねぇ…?」

ゼファ:
「クッ…待ってろシュナイザー!今助けてやる!」

ヨウェル:
「おっと、良いのですか?
お友達が…どうなっても…」

銃を突き付けられるシュナイザー

シュナイザー:
「う…!」

ゼファ:
「て…テメェ…ッ」

メル:
「シュナイザー…!」

シュナイザー:
「大丈夫だよ…”来い、ルーツ”!」

メル:
N『突然、奥の部屋の扉が破壊され
軍服の護衛達を蹴散らしながら現れたのは
スチームドールの…ルーツ』

ヨウェル:
「ほぉ、これはこれは…スチームドールですか
念のため部下に拘束をお願いしたのですが、
それを解くとは―――」

シュナイザー:
「やっちゃえルーツ!フルパワーだ!!」

炸薬機構によって繰り出されるハードパンチ
その攻撃を難なく躱すヨウェル
拳が床に突き刺さり、木片が飛び散る

ヨウェル:
「やれやれ…元気が良いですねぇ…しかし」

飛び上がって蹴りを叩き込み
その衝撃でレンガの壁にめり込むルーツ

ヨウェル:
「”教育”が、足りてませんねぇ…?」

シュナイザー:
「ルーツゥウウウ!!」

ゼファ:
「あのルーツが…一撃で!?」

メル:
「ルーツ…!」

ゼファ:
「テメェ…!バースト―――」

シュナイザー:
「待ってゼファ!」

ゼファ:
「シュナイザー!?」

シュナイザー:
「多勢に無勢すぎる…抵抗は…やめよう」

ゼファ:
「本気で言ってんのか!?」

シュナイザー:
「今の僕達じゃ…勝てない…」

ヨウェル:
「物分かりが良くて助かりますよ
ですが、躾(しつけ)は必要ですねぇ…
この子達を拘束してください?」

護衛達が二人を取り囲む

ゼファ:
「ッ!俺に触んじゃねぇ!」

シュナイザー:
「ゼファ…大人しくしてくれ…頼む…」

ゼファ:
「チィッ…わかったよ…!」

ゼファはコラプサーを床に落とした

メル:
「ゼファ…シュナイザー…」

両手を縄で拘束され、
壁際に座らされる二人

ヨウェル:
「楽しく遊んで貰ったようですねぇ?
実に可愛らしい…ですが」

メルに近づき、見降ろすヨウェル

メル:
「…?」

ヨウェル:
「その服は些か相応しくありません…
研究にも支障が出ます
渡していたローブに着替えなさい?」

メル:
「ぇ…」

ヨウェル:
「それとも…今この場で、
私の手を煩(わずら)わせるつもりですか?」

メル:
「…ッ」

ゼファ:
「このゲス野郎ッ!!」

シュナイザー:
「なんて卑劣な…!」

ヨウェル:
「やれやれ…口が悪いですねぇ」

ゼファ:
「グハッ!」

シュナイザー:
「ゼファ…うぐッ!」

護衛から蹴りを入れられる二人

メル:
「二人に手を出さないで…!」

ヨウェル:
「では早くして下さい?でないと、彼等が
もっと酷い目に遭うかも知れませんよ」

シュナイザー:
「ぅ…メルちゃん…」

ゼファ:
「ち…畜…生が!」

メル:
「着替えて…きます…」

ヨウェル:
「素直で、よろしいですねぇ」

奥の部屋に消え、しばらくして
駆け足で出てくるローブ姿のメル

メル:
「ゼファ…シュナイザー…
ありがとう…」

ゼファ:
「メル…!」

メルはフードを深く被り、二人を見ず

メル:
「さようなら…」

そう言い残し、
ヨウェルと共に去って行った―――

 


【場面転換】アジト内 13時59分PM
壁際で縛られたままの二人
顔を下げ、表情の見えないゼファ
なにやらゴソゴソするシュナイザー

シュナイザー:
「よし…上手くいった
縄抜けなんて実践したこと無かったけど、
調べとくもんだね?役に立ったよ…」

ゼファ:
「…」

ゼファの縄を解くシュナイザー

シュナイザー:
「ほら、外れたよ?ゼファ…うっ」

シュナイザーの胸ぐらを掴み
立ち上がって声を荒げるゼファ

ゼファ:
「―――なんで…!
なんで止めたシュナイザぁああ!」

シュナイザー:
「…わかってるだろ
あの状況で使ってもリスクが―――」

ゼファ:
「逃げられたかもしれねぇ!
俺達で!どこか遠くに!!」

シュナイザー:
「メルちゃんの首には”あの装置”が付いてる
逃げ切れたとしても、同じ事の繰り返しだよ」

ゼファ:
「んなもんどっかでぶっ壊して…!」

シュナイザー:
「アイツが言ってたろ!壊せないんだ!
今の僕達じゃどうする事もできないよ!」

ゼファ:
「わかってる…わかってるけどよぉ…
なら、どうすりゃ良かったんだ…!俺は!!」

シュナイザー:
「ゼファ…」

ゼファ:
「メルの…あんな哀(かな)しい顔を、
俺は!俺は見たくなかった…!!」

涙が溢れそうなゼファ

シュナイザー:
「僕だって同じだよ…でもだからこそ、
我慢しなきゃいけない時もあるんだ…」

ゼファ:
「何だと…!?」

シュナイザー:
「まだ…きっと大丈夫だよ」

ゼファ:
「どうしてそう言える!こうしてる間にも、
メルが酷い目に遭ってるかもしれねんだぞ!」

シュナイザー:
「アイツは、メルちゃんを必要としてた
殺すつもりなら、とっくにやってるよ…
でも、しなかった…
いいや、できなかったんだ
つまり、北大陸に連れて行くまでは
生きているはずだよ」

震えるゼファの手に
自分の手を添えるシュナイザー

シュナイザー:
「それまでには、助け出そう?」

ゼファ:
「どうやって!?
手も足も出なかっただろうが!」

シュナイザー:
「それは…」

言い淀むシュナイザーから手を離し、
背を向けて歩き出すゼファ

ゼファ:
「此処で言い争ってても埒(らち)が明かねぇ
俺は行くぜ、一人でもな…」

シュナイザー:
「何処に居るのかも分からないのに…?」

ゼファ:
「片っ端から潰していく…
手当たり次第、徹底的に…
見つからなくても、必ず見つけ出す
お前と初めて会った時に言ったよな…
俺は諦めが悪いんだって」

シュナイザー:
「…覚えてるよ」

立ち止まってコラプサーを拾うゼファ

ゼファ:
「俺はなシュナイザー…言ったんだ
一緒に行こうって、メルに」

振り返り、シュナイザーを見つめる

ゼファ:
「俺は旅に出る理由をずっと探してた…
それが見つかるまでは、
お前の夢を一緒に追い駆けるのも
悪くねぇと思った…
でも見つけたんだ、俺の旅に出る理由…
メルなんだよ…シュナイザー」

その眼に宿るのは”覚悟”

シュナイザー:
「…僕も行くよ」

ゼファ:
「お前は来んな」

シュナイザー:
「仲間だろ?」

ゼファ:
「諦めるつもりかよ…?
お前の親父さん…
ダイン博士を捜すっていう夢を」

シュナイザー:
「諦める訳無いだろ!」

ゼファ:
「シュナイザー…」

徐にテーブルへと向かうシュナイザー

シュナイザー:
「父さんは”あの”アインスタインを継げる
数少ない一人だった…」

ゼファ:
「アインスタイン…
数百年前に活躍した伝説の発明家…」

テーブルに飾られた一枚の写真立て
それを手に取るシュナイザー

シュナイザー:
「全ての技術はアインスタインに通じる…
蒸気機械の生みの親にして偉大なる英雄
父さんは、彼の発明を参考に
精密な義肢装具を開発してた…」

その写真には一人の男性が写っている

ゼファ:
「でも、お前を置いて出て行った」

シュナイザー:
「違う!行方不明になったんだ!」

ゼファ:
「俺達が会うより前の話だ」

写真立てを置くシュナイザー

シュナイザー:
「僕はそれでも…諦めない
父さんは生きてる、絶対に…
その為に探求者になったんだ
僕達なら、きっとメルちゃんを救えるよ」

その眼にも感じる、確かな”覚悟”
暫く考え、そして口を開くゼファ

ゼファ:
「―――俺達でなら、か
…そうかもしれねぇな」

シュナイザー:
「ゼファ…?」

ゼファ:
「心強いぜ?シュナイザー
お前が居れば百人力だ」

シュナイザー:
「…てっきり殴られるかと思ったのに」

ゼファ:
「殴れるかよ、”親友”を…」

シュナイザー:
「ゼファ…ありがとう」

壁に凭れ掛かるゼファ

ゼファ:
「さて、ならどうする?
北大陸までこのまま突っ込むのか?」

シュナイザー:
「そうだね北大陸…ん?
ちょっと待って、変だ…」

ゼファ:
「どうした?」

シュナイザー:
「君が最初に乗り込んだ列車、覚えてる…?」

ゼファ:
「あぁ、あの”棺桶”か…それがなんだ」

シュナイザー:
「アレは確かに、帝國の物だった…」

ゼファ:
「…?何が変なんだよ」

シュナイザー:
「問題は線路さ…あの線路はね?
東西大陸の交流が今よりも盛んだった頃に
使われていた物なんだ…でも、
経済が悪化してからは閉鎖されていた…
北大陸には直接繋がってないはずなのに、
アイツ等はソレを使って
険しい山岳地帯を越えて来た…
一体…どうやって…」

親指を噛み、外を見るシュナイザー
窓の向こう側には複数の金属鳥
”メタルバード”が羽ばたいていた

シュナイザー:
「線路の先…そうか…」

ゼファ:
「…シュナイザー?」

シュナイザー:
「わかったよ、ゼファ…”空路”だ」

ゼファ:
「…空?」

シュナイザー:
「レッドバレーの破棄された運搬用施設…!
線路はそこに繋がってる!
確かあそこは飛空艇が着陸できるんだ…
それも超大型級の…
あの列車は多分ソレを使って持ってきたんだ!
アイツ等の狙いはメルちゃんを飛空艇に乗せて
北大陸まで連れて行く事なんだよ!」

ゼファ:
「今からでも追いつけるか!?」

シュナイザー:
「山岳地帯の先だから…うん、
直線で山を越えて行けばなんとか成るよ!
コラプサーの充填は?」

ゼファ:
「二つ…だが、これで十分だ」

シュナイザー:
「コラプサーは放熱後、六時間毎に
失ったエネルギーを一つチャージする
強力な切り札だけど…反面、
判断を誤れば危険すら伴(ともな)う
諸刃(もろは)の剣…扱えるのは、君だけだ」

ゼファ:
「任せろ…今度こそ
ヤツにどデカい風穴、空けてやるぜ!」

シュナイザー:
「行こう、ゼファ
メルちゃんを助けに!」

ゼファ:
「あぁ、行こうぜシュナイザー!
反撃開始だ…!」

熱く手を握り、そして目指す
赤い地の谷…”レッドバレー”へ

 


To Be Continued…     後編はコチラ

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