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​サウィン

ここはオバケ達の住む『闇の世界』
今宵は年に一度の"特別な日"…

恐怖と狂気が交差する
歓喜と嘆きの歌声に
響く悲鳴と高笑い
悦び、のたうち、喝采あげて
不気味に着飾る
お祭り騒ぎ

そんな世界にただ一人、
人間の子どもが迷い込む―――

​~オバケ達と幸せのケーキ~

​登場人物


​子ども

 

オバケ達の世界に迷い込んだ人間の子ども
純粋無垢でちょっぴり臆病


ジャック

 

ボロ切れを纏うカボチャ頭
その思考は幼くもあり、成熟してもいる


​人狼

人のような狼、狼のような人

毛むくじゃら、嘘つきらしい


フランケン

全身ツギハギだらけ
動きはゆっくりだが力強い


魔女

 

大きな帽子を被ったローブの女性
落ち着きはあるが、どこか冷めている


語り部

兼ね役 ※誰でも演じて良い役です
読み聞かせるように演じて下さい

 

【役表】

子ども   不問 :

ジャック  不問 :

人狼    不問 :

フランケン 不問 :

魔女       ♀ :

​語り部  兼ね役:


【冒頭】どこかの森

語り部:
『ここはあなたが知らない場所
暗い影を落とす森の中…どこからか、
子どものすすり泣く声が聞こえてきます』

子ども:
「どうしよう…迷子になっちゃった…
この森…怖いよ…誰か―――」

フランケン:
「あの~」

子ども:
「ヒ!」

語り部:
『木々の間から現れたソレは
ゆっくりと近づいて来きました』

フランケン:
「大丈夫~…?」

子ども:
「ひ…と…?」

フランケン:
「ううん、"フラー"は
フラーだよ~」

子ども:
「フラー…?」

フランケン:
「うん、よろしくね~」

語り部:
『フラーは握手をしようと
手を差し出しますが、
その手はツギハギだらけです』

子ども:
「…あ、
フラー…ケガしてるの…?」

フランケン:
「大丈夫、フラーは"元々"だから~」

子ども:
「元々…?」

フランケン:
「それより、迷子なの~?」

子ども:
「うん…
わかんなくなっちゃった…」

フランケン:
「そっか、一緒だね~」

子ども:
「うん…え!?」

フランケン:
「フラーも、迷子~」

子ども:
「そうなんだ…」

フランケン:
「でも大丈夫、
"コレ"があるから~」

語り部:
『ゴソゴソとポケットに手を入れ
フラーは何かを取り出します』

子ども:
「ソレなぁに…?」

フランケン:
「お守り~」

語り部:
『広げて見せたのは、
黒くて小さな石』

子ども:
「…小さい石?え?」

語り部:
『フラーの握りしめた手の中で
その石が砕ける音がしました』

フランケン:
「え~い」

語り部:
『フラーは空高く石の粒を投げ、
それはキラキラと輝きながら
散り散りになって消えてしまいました』

子ども:
「わぁ…あんなに高く…って、
お守り投げちゃったの!?」

フランケン:
「これで良い~」

子ども:
「良くないよー!?」

魔女:
「"モリオン"を砕くなんて…
何を考えているの?」

語り部:
『突然、声が聞こえました
ですが姿はどこにも見えません』

子ども:
「え?どこから…」

魔女:
「たしかにアレが無くなれば
アンタを簡単に見つけられるけど…
森でそんなことをしたら、
"余計な奴"まで来るじゃない」

語り部:
『声は頭の上から聞こえていました
なぜなら、声を出していた人物が
宙に浮くホウキに乗っていたからです』

フランケン:
「盗られちゃったら、
ダメかなって~」

魔女:
「まったく…」

子ども:
「あの人、浮いてる…!」

魔女:
「あら…その子…?」

語り部:
『その時、何者かが森の奥から
草木を掻き分けてやってきました』

人狼:
「珍しい匂いがしたと思ったら
なんだ、ガキじゃねぇか!?」

魔女:
「はぁ…やっぱり来た」

子ども:
「お、狼…!?」

人狼:
「おいガキ、なんでここにいる…?
言わねぇと喰っちまうぞ!」

子ども:
「わわ…フラー、助けて!」

フランケン:
「人狼、この子迷子なんだ~」

人狼:
「だからなんだ、エサなんだろ?」

フランケン:
「助けてあげたいなって~」

人狼:
「助けるだぁ?そいつは人間だぜ?」

フランケン:
「そうだよ~?」

人狼:
「物好きも大概にしろよフラー…
んなことして何の得があるってんだ」

フランケン:
「でも困ってるんだよ~?」

人狼:
「俺様も困ってる、腹が減っててな…
わかったらおとなしく寄越しやがれ!」

魔女:
「そうはさせないわ?
アタシの実験対象よ?」

語り部:
『魔女はゆっくりと地面に降りると
人狼の前に立ち塞がります』

人狼:
「居たのかよ魔女…
そりゃどういう意味だ?」

魔女:
「色々と使えるかもしれないでしょ」

人狼:
「コイツは俺様の獲物だ!」

フランケン:
「フラーが見つけた迷子だよ~」

子ども:
「あわわ…どうしよう」

ジャック:
「そのくらいにしておきなよ」

子ども:
「今度は誰!?」

語り部:
『影の中から現れたのは、
ボロボロのマントを身につけた人物
その頭は顔のようにくり抜かれた
大きなカボチャでできていました』

ジャック:
「すまないね、悪気はないんだ」

人狼:
「テメェまで出てくんのかよ…?」

フランケン:
「来た来た~」

魔女:
「いつも遅いのよ、アンタは」

子ども:
「えと…?」

語り部:
『子どもの前に立つと、そのカボチャ頭は
深く、そして丁寧なお辞儀で歓迎します』

ジャック:
「はじめまして、ボクは"ジャック"
キミは…人間だね?」

子ども:
「そうだけど、じゃあ…
あなた達はもしかして?」

ジャック:
「そう、ボクらは"オバケ"さ」

子ども:
「やっぱり…!」

ジャック:
「恐れて貰って構わないよ?
それこそが、ボクらの"糧"だからね
…とはいえ、キミは少し子ども過ぎる
本来ここに来るべきでは無いはずだ」

語り部:
『顔を覗き込むように
ジャックは子どもに尋《たず》ねます』

ジャック:
「…どうやって、この世界へ?」

子ども:
「わ…わかんないよ…」

ジャック:
「まあそうだろうね!ハハハ
…でも、帰る方法が無い訳じゃないさ?」

子ども:
「ほんと!?」

ジャック:
「信じるのかい?"人では無い"ボクらを
…騙されるかもしれないよ?」

子ども:
「そ、それは…」

魔女:
「ちょっとジャック―――」

ジャック:
「大事なことだよ、魔女」

人狼:
「ジャックが言うならあんのかもな?
…テメェは、どうする?」

フランケン:
「信じてくれる~?」

語り部:
『子どもは下を向いた後、
少し悩み、そして恐る恐る顔を上げ、
まっすぐジャックを見て言いました』

子ども:
「…うん、信じたい
助けてくれるって、信じる」

ジャック:
「…そっか
なら、期待に応えなくちゃね?」

子ども:
「それじゃあ―――」

ジャック:
「でも、"決断は自分でする"こと…
これも大切なことだ、できるかい?」

子ども:
「うん!」

ジャック:
「よし、いい子だ」

人狼:
「油断してっと後ろからガブリと」

子ども:
「そ、そんなの…」

人狼:
「んん?なんだ?」

子ども:
「ずるい…」

語り部:
『ニヤニヤと笑みを浮かべていた人狼から
笑顔が消えます』

人狼:
「コイツ…!」

子ども:
「わわっ」

語り部:
『子どもは慌てて
ジャックのマントにしがみつきました』

魔女:
「やめなさいよ、子ども相手に」

人狼:
「今すぐソイツを喰ってやる!」

魔女:
「まったく吠えるのだけは得意なんだから」

人狼:
「なんだと!?」

魔女:
「あら事実でしょ?」

ジャック:
「まあまあ、人狼も魔女も落ち着いて…
この子が怖がってるじゃないか?」

子ども:
「あ…えと…その…」

フランケン:
「怖くない、怖くな~い」

人狼:
「ケッ…せいぜい震えてろ
テメェにゃソレがお似合いだ!」

語り部:
『人狼はそう言うと腕を組み、
プイとそっぽを向いてしまいました』

魔女:
「随分その子の肩を持つじゃない、ジャック?」

ジャック:
「妖精には優しくしなくちゃね」

魔女:
「アンタが子ども好きなのは知っているけど
独り占めでもする気?」

ジャック:
「それは違うさ?
ただ、人間はここじゃあ珍しい」

魔女:
「確かに…珍しいわね」

ジャック:
「ここはボクらの"世界"だ…
狂ってはいても、それなりに平穏がある
不確定要素はできるだけ取り除くべきなのさ
キミだって"素材"にするなら
完璧が良いだろう?」

魔女:
「…それもそうね、いいわ?乗ってあげる
でもどうするの?」

ジャック:
「ん?何が?」

魔女:
「決まっているでしょ?方法よ
前例がないんだもの…」

ジャック:
「ああ…そのこと?」

人狼:
「そいつぁ俺様も気になるな」

フランケン:
「何かあるの~?」

ジャック:
「"逆"に考えるのさ」

子ども:
「逆?」

ジャック:
「この子は常識はずれだ…
方法があるとすればそれは、
世界の常識を覆す必要がある」

魔女:
「たとえば?」

ジャック:
「ここは負の感情が詰まった世界…だから、
逆に幸せな感情を溢れさせる、とかね?」

魔女:
「ふーん…なるほど?」

人狼:
「幸せねぇ?」

フランケン:
「楽しそう~」

ジャック:
「キミは前の場所で何が好きだった?」

子ども:
「好きだった…んー」

ジャック:
「なんでもいい、
幸せに感じたことはある?」

子ども:
「…笑わない?」

フランケン:
「笑わない、笑わな~い」

魔女:
「言ってご覧なさい?」

語り部:
『子どもは元気に答えます』

子ども:
「んと、甘いお菓子!」

人狼:
「ダッハッハッハッ
ガキンチョらしいな!」

子ども:
「ムー笑わないでよ!」

フランケン:
「人狼~…」

魔女:
「アンタね…」

人狼:
「だって菓子だぜ〜?
んなもんがここにあるワケが―――」

ジャック:
「無ければ、作ればいいのさ」

人狼:
「…あ?」

フランケン:
「うんうん~」

魔女:
「そうね、作りましょう」

子ども:
「お菓子を…作るの?」

ジャック:
「大丈夫、なんとかなるはずさ?」

子ども:
「ほんとー?」

魔女:
「調合素材なら任せなさい?」

人狼:
「そいつぁ良い!
テメェらがどんな菓子を作んのか見物だぜ!」

魔女:
「アンタも作るのよ」

人狼:
「あ!?なんで俺様まで!」

魔女:
「笑った罰よ?
それともここに残る?」

人狼:
「獲物を前にして逃げるかよ!
けど、絶対に手伝わないからな!?」

魔女:
「はいはい…
ジャック、先に行ってるわね?」

ジャック:
「わかったよ魔女」

魔女:
「フラー?今度は迷わないでね?」

フランケン:
「みんながいるから平気だよ~」

ジャック:
「キミもついて来て?
ここには慣れてないだろうから
ボクらが案内しよう…さ、手を」

語り部:
『子どもは差し出された手を取ると、
ジャックに尋ねました』

子ども:
「これからどこに行くの?」

ジャック:
「ボクの城は遠いし、
キミは街じゃ目立ち過ぎるから
近くにある魔女の家に行くのさ?」

子ども:
「魔女さんのお家《うち》?」

ジャック:
「あそこは色々あるからね
きっと気にいるはずさ?」


【場面転換】 魔女の家

語り部:
『森の奥にひっそりと佇《たたず》むそれは
レンガでできた古い家
その赤い屋根には草が生い茂り、
色とりどりの小さな花が咲いています』

子ども:
「わー素敵なお家〜」

魔女:
「ようこそ、アタシの隠れ家へ」

人狼:
「相っ変わらず甘ったりぃな
この"ヘクセンハウス"は…」

魔女:
「つべこべ言わないの
少し片付けてくるわね?
フラー、裏から薪を取って来てくれる?」

フランケン:
「うん、わかった〜」

人狼:
「…俺様は手伝わねぇぞ」

魔女:
「手伝わないなら外で待ってて」

人狼:
「へいへい」

語り部:
『魔女はそう言うと家の中へ入って行き、
人狼はその場にドカッと座り込みます』

フランケン:
「イジメちゃだめだよ~?」

人狼:
「うるせぇな…ほっとけ」

語り部:
『フラーも家の裏側へと歩いて行きました』

ジャック:
「んー…ボクも手伝ってくるよ
…キミはどうする?」

子ども:
「ううん、少し疲れちゃった」

ジャック:
「そっか…なら、
そこの切り株で休むかい?」

語り部:
『ジャックは庭にポツンとある
切り株を指して言いました』

子ども:
「うん、座って待ってる」

ジャック:
「危なくなったらすぐに呼ぶんだよ?」

子ども:
「うん!」

語り部:
『ジャックは小さく頷《うなず》くと、
その場からパッと姿を消しました』

人狼:
「…ケッ」

子ども:
「ふふ」

人狼:
「何笑ってやがる」

子ども:
「あ…その…」

人狼:
「俺様の顔に何か付いてんのか?!」

子ども:
「ヒ!違くて…」

人狼:
「じゃあなんだ」

子ども:
「こういうのって…良いなって」

人狼:
「…あ?」

子ども:
「あったかくて、優しくて…」

人狼:
「…そりゃテメェの勘違いだろ」

子ども:
「そう…なのかな…?
感じたこと、なかったから…
だから…嬉しくて」

人狼:
「…一度もか」

子ども:
「うん…」

人狼:
「…そうか」

子ども:
「ごめんなさい…」

人狼:
「謝んな!…ッ
仕方ねぇから…手伝ってやるよ」

子ども:
「ほんと?」

人狼:
「今回だけだからな」

子ども:
「ありがとう!」

人狼:
「やめろ!
礼なんざ言われ慣れてねぇんだ!」

子ども:
「ふふ…嬉しいんだね」

人狼:
「ったく、なんで俺様が…」

ジャック:
「どうやら、仲良くできそうだね」

語り部:
『背後に現れたジャックの声に驚きます』

人狼:
「なっ…ジャック!?」

子ども:
「ジャック、おかえりぃ」

人狼:
「いつから居やがった…」

ジャック:
「まあまあ、良いじゃないか
平和が一番だよ、人狼」

人狼:
「…言うなよ?」

ジャック:
「ああ、わかっているよ」

魔女:
「お待たせ、中に入って…
あら?フラーはどこ?」

フランケン:
「前が見えな~い
手伝って~」

語り部:
『たくさんの薪を抱えながら
こちらへ歩いてくるフラー
良い子は真似しないようにね』

ジャック:
「半分持つよ、フラー」

フランケン:
「うん~」

魔女:
「もぅ、張り切り過ぎよ?」

子ども:
「1つ持つね!」

フランケン:
「ありがとね~」

人狼:
「…俺様にも手伝わせろ」

フランケン:
「人狼もありがとう~」

魔女:
「どういう風の吹き回し?」

人狼:
「気が変わったんだ、悪ぃか?」

ジャック:
「良いじゃないか、嬉しい事だよ
ところで魔女?レシピと材料は?」

魔女:
「レシピならあるわ」

フランケン:
「どこに~?」

魔女:
「"ここ"よ」

語り部:
『魔女はそう言いながら
頭に被っている帽子を指差しました』

人狼:
「その帽子ん中にか?」

魔女:
「…それで良いわよ
問題は材料だけど…」

ジャック:
「この子は特別だ、
だから材料も限定されるね」

魔女:
「ハチミツもラム酒もダメね」

子ども:
「どーして?」

魔女:
「大人になったら教えてあげる
フラー?窯に薪を焚べてくれる?
熱を入れておかなきゃ」

フランケン:
「任せて~」

子ども:
「一緒にする!」

魔女:
「お願いね?
まず大事なのは生地よ?
今回は"ベーキングパウダー"と、
"薄力粉"かしら?"卵"もいるわね…」

語り部:
『魔女が言いながら杖を振ると、
棚から次々と材料が飛び出します』

魔女:
「甘みの"砂糖"と…風味も大事ね
"バター"は多めに用意しましょう」

人狼:
「砂糖はこの壺でいいか?」

ジャック:
「バターはこのカップだね?」

魔女:
「"シナモン"に"ナツメグ"…
あと必要なのはフルーツね」

フランケン:
「棚に"レーズン"があるよ~?」

子ども:
「シワシワの…ブドウさん?」

魔女:
「いわゆる、ドライフルーツよ?」

人狼:
「ほぉ~うまそうじゃねぇか」

魔女:
「犬用のは無くってよ」

人狼:
「誰が犬だ!」

魔女:
「すぐ噛み付くんだから…
とりあえず、これを使いましょう」

フランケン:
「準備できたよ~」

ジャック:
「早速作ろう」

子ども:
「ワクワク」

魔女:
「はじめに深めの器へレーズンを100g
サルタナレーズンとカレンツレーズンも
それぞれ20gずつ入れる」

人狼:
「どれも一緒じゃねぇか?」

魔女:
「色合いが大事なのよ
ここに紅茶の葉と、
熱湯を200ml注いで漬け込む
茶葉は"アールグレイ"にしましょう
コレとバターを薄く塗ったケーキ型を
同時に冷やしておく…フラー?お願い」

フランケン:
「わかった~」

ジャック:
「銘柄は"バリーズ"?
それとも"ライオンズ"?」

魔女:
「戦争したいの?」

ジャック:
「冗談さ?」

魔女:
「ボウルに卵を1つ割り入れて溶き、
砂糖を100g加えて良く混ぜる」

子ども:
「…一緒にしても良い?」

魔女:
「ええ、もちろんよ?
溶かしたバターも40g加えてね」

ジャック:
「OK、ボクが用意するよ
次は?」

魔女:
「漬けておいたレーズンを
茶葉ごと入れる」

人狼:
「ほらよっと」

魔女:
「薄力粉200g、
ベーキングパウダー小さじ2、
そこにシナモン小さじ2、
ナツメグ少々…
振るいにかけて、サックリ混ぜる」

フランケン:
「こんな感じ~?」

魔女:
「良い感じね?
冷やしておいた型に薄力粉をまぶして、
余分な粉は取り除き、生地を流し入れる」

子ども:
「入れたよ?」

魔女:
「型ごと落とすようにして空気を抜き、
180℃の窯で焼いて、膨らんだら完成よ?」

人狼:
「どのくらいだ?」

魔女:
「大体40~50分ってとこね」

人狼:
「そんなに待てるか!」

魔女:
「仕方ないわね…ジャック?」

ジャック:
「仰せのままに」

語り部:
『パチン、指を鳴らすと窯の蓋が開き、
ケーキが香ばしく焼きあがりました』

子ども:
「わぁ…良い匂い!
ジャックすごい!」

人狼:
「やるなジャック!」

フランケン:
「さすがジャック~」

魔女:
「ありがとジャック」

ジャック:
「どういたしまして」

子ども:
「なんていうお菓子なの?」

魔女:
「"バームブラック"よ?
中にフルーツが入ってるの」

人狼:
「"シュトーレン"みてぇなもんか」

フランケン:
「おいしそう~」

ジャック:
「さぁ、切り分けよう」

人狼:
「俺様のは大きめにな!」

ジャック:
「はいはい」

魔女:
「…欲張りなんだから」

子ども:
「食べて良い?」

魔女:
「どうぞ召し上がれ?」

子ども:
「わーい!あ~ん…んー♪」

魔女:
「どう?おいしい?」

子ども:
「うん!おいしい!」

魔女:
「そう…良かったわね?」

語り部:
『しっとりとした甘い生地に、
紅茶とバターの優雅な香り
余程おいしいのか、
子どもは口いっぱいに
ケーキを頬張ります』

ジャック:
「幸せそうだね」

魔女:
「ええ、ジャックはどう?
お口に合うのかしら」

ジャック:
「ああ、とてもおいしいよ
プディングにも負けていない」

魔女:
「…故郷の料理?
いつか御馳走して頂戴ね」

ジャック:
「もちろん構わないさ?」

人狼:
「随分楽しそうじゃねぇか魔女、
人間は嫌いじゃなかったのか?」

魔女:
「子どもは"別"よ
アンタこそ、なんでよ」

人狼:
「…約束しちまったからな」

魔女:
「ふ~ん?」

ジャック:
「二人とも優しいね~
まあボクも子どもは好きだけどね」

人狼:
「よく言うぜ…」

フランケン:
「フラーも子ども大好きだよ~?」

魔女:
「フラーは素直よね~」

子ども:
「おかわりぃ!」

フランケン:
「あ、フラーも~」

人狼:
「俺様の分も残しとけよ!?」

魔女:
「慌てないで、まだあるから
ジャックも食べるでしょ…?」

ジャック:
「フフ…いただくよ」

語り部:
『子どももオバケ達も、
おいしいケーキを食べて
皆が幸せそうな笑顔です
すると突然、家の外が
明るくなってきました』

魔女:
「やけに外が明るいわね?」

フランケン:
「満月だからね~」

ジャック:
「…変だ」

人狼:
「ん?どうしたジャック」

ジャック:
「あの月だよ、明る過ぎる」

魔女:
「まさか…"門"?」

語り部:
『家を出てみると、
月明かりがスポットライトのように
庭を照らしていたのです』

魔女:
「見て、あの場所に降り注いでる
まるで光の階段ね」

子ども:
「綺麗…」

ジャック:
「あの光の先がキミの世界だ」

子ども:
「…うん」

語り部:
『お別れの時がやってきました
ゆっくりと光に歩み寄る子どもを
オバケ達は優しく見送ります』

ジャック:
「ボクらは行けない
けど、危険はないはずさ」

子ども:
「ほんとジャック?」

魔女:
「大丈夫よ、さ?
きっとお母さんにも会えるから」

子ども:
「お母さんに?
うん、ありがとう魔女さん!」

フランケン:
「元気でね~」

子ども:
「うん、フラーもね!」

人狼:
「戻ってきたら今度こそ容赦しねぇ」

魔女:
「素直じゃないわね」

フランケン:
「素直じゃな~い」

人狼:
「ウルセェ」

子ども:
「人狼さん、その時は、あの…」

人狼:
「なんだ」

子ども:
「お友達になってくれる?」

人狼:
「テメ…」

子ども:
「くれる?」

人狼:
「フン…考えてといてやるよ」

子ども:
「やったあ」

ジャック:
「…さ、光が無くなる前に」

子ども:
「うん!」

語り部:
『子どもは元気よく、
満面の笑みで応えました』

ジャック:
「…まったく、
キミは本当に"嘘つき"だね?」

人狼:
「言ってろ」

ジャック:
「フフ…怖い怖い」

子ども:
「みんなありがとう~!
バイバーイ!」

語り部:
『子どもは笑顔のまま光に導かれ、
静かに空の彼方へと消えていきます
その光が雲に覆われてなくなるまで
オバケ達はジッと見守っていました』

魔女:
「…あの子、無事に帰れたのかしら」

人狼:
「さぁな…大丈夫だろ」

ジャック:
「そうだと良いね」

フランケン:
「うんうん~」

ジャック:
「でも、このままではいけないね」

魔女:
「ジャック…?」

ジャック:
「同じ事が起きないように、
ボクらで"革命"を起こそう」

魔女:
「革命?」

人狼:
「たとえば?」

フランケン:
「どうするの~?」

ジャック:
「噂を流すのさ?ボクらが欲しいのは
“命“そのものじゃない、ってね…」

魔女:
「となると別の供物《くもつ》かしら?」

フランケン:
「何をねだるの~?」

人狼:
「肉か?酒か?それとも金か?」

ジャック:
「…あの子が好きだった"お菓子"にしよう
代わりにボクらは愉快な時間を
プレゼントするのさ?」

魔女:
「それは楽しみね」

人狼:
「ハッ腕がなるぜ!」

フランケン:
「賛成賛成~」

語り部:
『再び月が顔を出し、光が降り注ぎます
その先は…宝石のように輝く、人間界』

ジャック:
「…さあ行こう、宴の時間だ」

語り部:
『オバケ達は空へ舞い上がると
徐々に小さな点となり、
月明かりに消えていきました』

魔女:
「今宵は年に一度の日…」

人狼:
「燃える炎に想いを焚べて!」

フランケン:
「みんなで踊って唱えよう~」

ジャック:
「ボクらの新たな"合言葉"」

全員:
「トリック・オア・トリートォ!」





おしまい

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